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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚2

 穏やかな高橋の声に、その場にいた者たちが、そろって息を飲んだのが分かった。 「あなた方、プロジェクトチームがおこなってきたタスクマネジメントについて、採算がとれないと本社は判断しました。大変お忙しいでしょうが、現在手がけている業務を半年以内に終息させてください」  微笑みを絶やさず、微かな労りを匂わせる丁寧な口調で告げた言葉を聞き、お通夜のような重苦しい空気が会議室を包んだ。  高橋の本来の仕事は、自分の目の前にいる面々と同じく、使われる側だというのに、盗聴した行為のやり取りを聞いた牧野の計らいで、命令する側に指定された。 『飴と鞭の使い方が、絶妙だと思ってね。これを仕事で発揮してくれよ。僕の口から奴らに指示をするよりも、きっと後腐れなく切ることができるだろう?』  高橋が断ることができないのを承知で、今回の仕事を押しつけられてしまったのである。 「待ってくれ、2ヵ月……いいや3ヶ月で業務の改善をして業績を上向きにするから、それまで待ってはくれないだろうか」  禿げた頭頂部を蛍光灯の光で照らした部長が、上擦った物言いで交渉する。周りの社員たちも必死な形相で、手元にある資料に目を落としながら、どうにかしようとそれぞれ画策をはじめた。 「あなたは牧野に『1ヶ月待ってくれ』と仰ったそうですね。昔一緒に仕事をした恩があるからと目をつぶり、そのときを待ったと聞いてます」  最終宣告を聞いて、やっと重い腰を上げた社員の慌てふためく様子を、嘲るような冷たい目で眺めてやった。 「そ、それは……」  高橋は改めて姿勢を正し、部長の顔を射竦めるように見つめた。今度は笑みを見せずに、真顔を貫く。 「こちら側としては、きちんと1ヶ月待ちましたが、フラットになるどころか赤に転じました。あと2ヵ月も指をくわえて、本社にそれを見ていろと言うんですか?」  優しい物言いから一転させた、鋭い語気で言い放った途端に、躰を大きく震わせる者が数人、手にしていた書類を床に落とした者が一人、驚きのあまり彫刻のように固まる者数人という、それぞれのリアクションを確認してから、開いていたファイルを手早く閉じた。 「高橋さん、お願いだ。もう少し待っ」 「冗談じゃない!」  不機嫌を凝縮させた高橋の怒号で、社員たちを委縮させ、強引な形で会議を終わらせた。  たったこれだけのために、支店に足を運ばせた牧野に突きつけてやりたいセリフを最後に言い放って、会社を出た高橋の足は、迷うことなくそこに向かったのだった。

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