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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚3
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たった数年で街並みが変わるはずはないのに、高橋の目に映る景色は、青年と別れてからどれも色褪せて見えた。
そこまで通い慣れているはずがないのに、すんなりと店までの道のりを迷いなく歩くことができるのは、あのとき青年に優しくされた記憶があるせいなのか――あるいは、生まれてはじめて切ない別れを経験したからなのかは分からない。
最後に交わした会話を思い出しつつ、自分と青年を見えない糸で繋いでいる、店の存在が気になった。
(この不景気の煽りを受けて、潰れていなきゃいいが――)
そんなことを考えながら、元恋人が経営する店に向かうべく、古ビルのコンクリート製の階段を靴音を立てながら上る。
2階のフロアの一番手前にある、漆黒に塗られた扉の前に立ちつくし、金色の文字で『Ambitious』と表記された看板があることを確認した。ちゃんと店が存続していることに、高橋は思わず微笑んでしまった。
久しぶりの来訪に、あまりいい顔をしないだろうなと予想し、扉を開けて足を踏み入れる。勢いよく扉を開けた振動で、ドアベルが盛大に店内に鳴り響いた。
「いらっしゃ~い、本日第一号のお客様っ!」
そんなドアベルの音に負けない声を出した大柄な背中が、高橋の目に留まった。
「…………」
開店準備が間に合っていなかったのか、こちらに背中を向けたまま、忙しなく動く姿を黙って見つめる。
背後から何の反応もないことを訝り、動かしていた手を止めて、恐るおそる振り返った瞬間に、忍の小さな瞳が自分を捉えた。
「ウゲッ! 健吾っ、何しに来たんだよ?」
己の目で確認するなり、甲高い声が素の声に戻った。しばらくぶりに聞いたその声に、高橋は懐かしさを覚える。
「何しにって、客として来たんだけど」
5席あるカウンターの左端に堂々と腰かけて、困惑の表情を滲ませている元恋人を微笑み混じりに、じっと眺めてやった。
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