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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚6
「アンタがここに来た本当の理由を、そのカクテルで表現してみたの」
「本当の理由?」
「とりあえず何も考えないで、それを飲んでみてちょうだい」
気味の悪いくらい優しい声に促されたせいで、 因縁をつけることなく素直に従ってしまった。
タンブラーの端についているレモンを取り除いてから、怪しげな酒を仕方なく口に含む。
「これは……、ベースはバーボンか?」
「正解。ワード・エイトっていうカクテルなの。バーボンにオレンジジュースとレモンジュースとシロップを混ぜ合わせてるんだけど、今回作ったそれは、レモンジュースの割合を多くしてみたのよ」
「なるほど、そのせいか。甘さの中にレモン独特の苦みがあったのは」
タンブラーをちょっとだけ傾けて中に入っている氷をマドラー代わりに揺らしてから、もう一度飲んでみる。
「察しのいい健吾なら、私が何を言いたいのかが分かったでしょ?」
様にならないというのに高橋に向かってウインクした忍に対し、眉をきゅーっと顰めてみせた。
「バーボンは彼がはじめてここに来たときに飲んだ、ミントジュレップのベースになっている酒で、レモンジュースは……。シトラス系の香りを使ってる、彼の香水を表しているってところだろ」
「あのときの健吾ったら、酷い顔をしていたわよね。えらく瞼が腫れていて、目の大きさがいつもの半分になっていたっけ」
「自分で自分の顔は見えないからな。酷い顔と言われてもさっぱりだ」
「同感! 今の私も自分の顔が見えないもの。どんなに酷くたって気にしなーい」
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