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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚6.5
いつもの調子を取り戻したのか、明るい声色で言いながら手に持っていたカクテルグラスを高橋のタンブラーに当てて勝手に乾杯し、一気に飲み干す。
「……彼は元気なのか?」
「あらあら。江藤ちんの名前を出せないくらいに、深く傷つく別れを経験したのかしらぁ?」
「はっ、別れるなんて造作のないことだろ」
高橋は吐き捨てるなり、タンブラーの中身を煽るように半分ほど飲み込む。口当たりは甘いのに、あとから感じるレモンの苦味で、顔の片側だけ歪めた。
「私と付き合ってた頃の健吾なら、何の痛みも感じずに、後腐れなく別れていたでしょうね。でも今のアンタは違うわ」
瞼を伏せながら告げられたセリフに、小さな溜息をついてみせた。
「何が?」
「人の痛みを知ってる顔になってる。きっと、恋でもしたんでしょうね」
「そんなもの……。くだらない!」
「それにさ、アンタいい男だったのに、随分と老け込んじゃったわよね」
「月日が流れれば、誰だって年を取るだろ。残念ながらお前も、化粧で隠しきれない小皺が増えてるぞ」
「バカね。それがいい味出してて可愛いって言ってくれる、お客だっているのよ」
「それこそ馬鹿だろ。お世辞を真に受けるなんて、そのうち詐欺に遭うぞ」
肩を竦めながら笑った高橋に、忍は声を立てて笑いだした。
「心配ご無用よ。悪い男に引っかかったお蔭で、いい勉強させられたもの」
「そりゃどうも」
昔のやり取りを再現した、今の様子をどこか懐かしく思いながら、ふたたびタンブラーの中身を口にする。
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