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ゲイバーアンビシャスへの再来前日譚7
「はるくんは元気なのか?」
苦いレモンの味を舌の上で堪能しつつ、鼻腔に感じる清々しい香りに導かれるように、聞きたかったことがするっと喉から飛び出た。
さっきまでは躊躇っていた名前がスムーズに出たことに、高橋自身驚きを隠せずに目を見開き、そのまま固まった。
「何て顔してんのよ。健吾らしくない……」
右手の中にあるタンブラーの中から、氷がカランと音を立てた。まるで高橋の動揺を示しているように聞こえたそれを誤魔化そうと、意味なくタンブラーを揺らして雑音を増やしてみる。
「アンタ、何やってんのよ。無意味な行動は嫌いだったでしょ。馬鹿のやることだって、笑っていたじゃないの」
「無意味な行動じゃない。レモンの苦みを薄めようとしてるだけだ」
「まぁ素直じゃないのね。江藤ちんのことは知りたくないの?」
忍に核心を突かれたことでタンブラーの動きを止めて、みっともない顔を渋々見上げた。ちょっとだけ微笑みを湛える唇に、どうしても目が留まる。彩りを与える紅の色が鮮やかすぎて、目に毒だと思わずにはいられなかった。
「……はるくんはこの町にいるのか?」
「さぁね。アンタに紹介されたお客だけど、その後のプライベートをわざわざ教えるわけがないでしょ」
忌々しそうな表情を浮かべた忍の顔つきや、その他の微妙な様子で、青年の身の上を高橋は自然と悟ることができた。
「元気にこの町にいるのか。分かった」
「私は何も言ってないし、教えてもいないでしょ。勝手にここにいることにしないでちょうだい!」
「足繁くとはいかなくても、この店に顔は出しているようだな」
「何でそうなるのよ」
「忍なら、はるくんのいい相談相手になれると俺が思ったから。俺様に見せかけてはいるが、見た目以上に繊細で傷つきやすい心を持っている。俺からの紹介で最初は警戒していた彼が、人当たりのいいお前と仲良くしていることくらい、容易に想像できるさ」
残っているワード・エイトを飲み干し、タンブラーから手を放した途端に、別のグラスが隣に置かれた。
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