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天然は治りません!②
ワインを飲み干す唇に目を奪われながら、今、私の前で何が起こっているのかもはや理解出来なかった。
デリヘルは、瑛ベルで。
瑛くんは、可愛い、娘ではなく、30過ぎた私を好きだといい、私は右側だという。
瑛くんが左って瑛×私?なんだそれは。
「最初は、なんて綺麗な顔の人だと思いました。まさに一目ぼれ。繊細なアンティークのレースよりも貴方は綺麗でした」
「……レースに例えられても。そういや君に仕事依頼する時、最初はぼーっとしてたけどあとから乗り気になってくれたよね」
「蘭丸さんに見とれてました。そして貴方の子供服に対する熱弁に心を打たれました。俺も貴方にここまで思われてみたいなって」
うひゃあ。天然って自分のことじゃないの。頬が熱くなるぐらいの甘い言葉だ。
「私も君の作るデザインは、女の子を本当に美しく惹きたててくれるから大好きだよ。君のデザインした、リンゴとガラスの靴と貝殻が鏤められたレース、あれは本当に美しい」
「そうですか?」
瑛くんは、甘く笑う。ワインより、極上に甘く。
「俺は、蘭丸さんの方が美しいです」
照れもせずに、気障ったらしい言葉を吐く。そうか。
キミは最初っからずっと、私に気づいてほしくて叫んでいたんだね。
その熱い眼差しの理由がやっと分かったよ。
ふふふ、と思わず笑顔が零れる。人に好きだと言われるのは、男でも女でも関係なく嬉しいものだ。ちょっと変わっているけど、仕事で尊敬している人なら尚のこと。
「嗚呼、ダメだ。そんな笑顔、可愛すぎる」
「え?」
カランとテーブルの上をグラスが倒れて行く。
中にはもうワインは入っていないが、私はそちらに手を伸ばす。
それよりもはやく瑛くんの腕が私の腰を引き寄せて、カランカラン弧を描きながら回るワインを見ていた顔を、顎をくいっと持ち上げられて瑛くんの方を向かされた。
「んーーっ」
甘い、アルコールが香る、しっとりした唇が重なる。
遠慮なんかなく、唇を舌でこじ開けられて、中にぬめりとした温かい舌が入ってきた。
「んんっ んっ」
そのまま抱き締めれらてしまい、私は何度も何度も瑛くんの胸を両手で拳を作り叩く。
けれどぎゅうっと密着するように抱き締められて、最後の抵抗も阻まれた。
どれぐらいキス、しただろうか。
腰が抜けてしまった私をしっかりと抱きとめながら、瑛くんは唇を離した。
お互いの息が荒く乱れるキスなんて初めてだ。まさに腰が砕けるような甘いキス。
「君、慣れ過ぎ」
「そんな言葉、嬉しくない。俺は貴方を満足させたいだけですから」
腰が砕けた私を、瑛くんは簡単にお姫様だっこしてしまう。これが5歳も離れた若者のパワーか。
「食後に蘭丸さん、頂きます」
「しょ!?」
「因みにサンタはチェンジも返品もできません」
そう言うと、ネクタイを緩めた。
「サンタは平等に皆にプレゼントを配るんですから」
あれ? そうなの?
じゃあ俺はサンタから何をー……?
「好きです。蘭丸さん、観念して俺の恋人になって下さいね」
甘く耳元で囁く。
チェンジもさせてくれないサンタが、私に愛を贈ってくれる。
「瑛くん」
優しく寝室のベットに寝かされながら、自分のネクタイを緩めていく瑛くんは私の上に重なってきた。
「――ん? なに?」
とろけるように甘く笑う瑛くんに、私は首を傾げる。
「男同士で今から何するの?」
「は?」
「お互い手でその、するの? だったらティッシュを」
「ははは。ちょっとそれ、笑えない」
余裕がなさそうな瑛くんは、私のエプロンに手を伸ばす。
「男同士でも愛し合うことはできますよ」
するすると肩からエプロンが脱がされていく。
中に着ていたブラウスのボタンを脱がされながら、心なしか上から瑛くんの堅いものを押し付けられているような?
「あの、まって、ちょっと、あのさ」
「好きです。今から、俺が愛してあげますから、ね?」
戸惑う私の身体を、瑛くんの優しい指先が支配していく。
指先からでも、瑛くんの優しさが伝わってきて、私の心を満たせていく。
男同士の愛し方なんて知らなかった。
――知りたくも無かった。
なのに身体は溶けていく。
「待って、瑛くっ」
「散々待ちましたから、――もう待ちませんよ」
そう言うと、瑛くんは私の唇を奪った。
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