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枕元のプレゼントがありません!
体中に花弁が舞い散る朝――……。
「ああ。――うん」
誰かの声がする。誰かが電話で話している。低くてセクシーな声だな。
「ありがとう。胡蝶ちゃん。まだゆっくりしといで。俺から蘭丸さんに言っておくから」
俺から蘭丸さんに――??
ん?
けだるい(特に腰が)身体を起こして、電話している人の背中を凝視する。
痛々しい噛み痕や、ミミズ晴れのような赤い線が浮いている背中。
可哀想に。引き締まった男らしい背中なのに。
誰がつけた……?
誰がつけたのか?
誰が?
「あれ? 蘭丸さん起きちゃいました? おはようございます。ちょっと待ってて下さいね」
嬉しそうに笑うその男は、前髪が下ろされなんだか少し幼い印象があり、一瞬誰か分からなかった。
「君、今誰と話してたの?」
ボーっとしながら話しかけると、コップにアイスコーヒーを注いで持ってきてくれた。
「君、じゃなくて瑛って呼んで下さいよ。――昨日の夜みたいに甘く」
「昨日の夜?」
コップを受けようとして起き上った私は、自分の姿に思わず固まった。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! なんで裸!」
体中に広がる鬱血は、ななななな何?
色が白いせいで、何だか酷く目立っている。
「昨日――激しかったですよ、蘭丸」
フッと耳元で甘く呼び捨てされると、ゾクゾクと身体が甘く痺れた。
昨日?
激しい?
思い出せ。思い出せ。
確か昨日、私はこのイケメンに告白されて、思わず和んだらベットに押したされて……。
『あっ、やっ――んんっ』
『蘭丸さん、声、やらしー』
『やっ、君こそ大きくしないでっ、お腹破裂しちゃうっ、から』
お、お腹なんぞ破裂しねええええ!
ダメだ。昨晩は、初めて男のあれを受け入れてしまい、よがり、乱れ、泣いて、ちょっと何を言ったのか思い出せないような思い出したくないような。
「ううっ!! もうお嫁にいけない!! セクハラだ! セクハラで訴えてやるっ」
「泣かないで? ムラムラするから」
「うるさい! あほ、ばか、キザ!」
枕を投げつけると、火照って真っ赤な顔を両手で覆いしくしく泣いた。
「あ、あんな、蛙がひっくり返ったような醜い姿を晒して――私はもう死んだ方がいいかもしれない」
「あ、正常位は恥ずかしかったんですか? でも恥じらう蘭丸さんの足を開くのは俺好」
「二度と喋るな! セクハラサンタ!」
一度身体を許してしまったせいか、瑛くんが馴れ馴れしいと言うか、距離が近いです。
「恥じらう蘭丸さん素敵でした。満足出来なくて何回も何回も愛し合ったら『もう……許して』って泣くから、仕方なく抱き締めて眠りました」
「何それ。君こわい。私の初めてを何度何度も攻めるなんて鬼畜! 鬼!」
「蘭丸さんだって、俺の背中キズものにしたんですから、おあいこですよ。責任とって嫁にしますから」
背中の蚯蚓腫れを、愛しげになぞる瑛くんは恍惚した様子で、もう何だか今すぐどっか逃げたい。
「うううう。もうやだ。帰ってよう。胡蝶ちゃんに見られたら私、死ぬよ」
「あ、胡蝶ちゃんはこれから女子会メンバーでカラオケ行くらしいからゆっくりして良いですよって」
「ええええ。いつ? 私の携帯!?」
「いえ。俺の携帯に」
着信を見せてきた瑛君のスマホを奪うと、そのロック画面に呆然とした。
「これ! 私の寝顔!」
「可愛いですよね」
「そうじゃない!」
どうしよう。やっぱり瑛くん、怖い。
なんでこんな朝から艶々してて、セクハラ全開で、いちいち声が甘いの。
怖いよー。
「もう、蘭丸さん、昨日あんなに愛し合ったのにまだそんなにつれなくするんですか?」
「や、あの、でも私、君がまだ好きかも分からないし、流されたと言うか」
両人差し指を合わせてもじもじすると、瑛君からどす黒いオーラが放たれきた。
「流されたのに、何度も何度もイッたんですか。俺は貴方が気持ち良くなれば誰でも良い、デリヘルサンタみたいな代用品ですか?」
「こ、怖いからそんな怒らないでよ。泣きたいのは私だよ……」
あああ、何で私は瑛くんにもっとちゃんと拒否できなかったんだろう。
「分かりました」
「分かってくれたの?」
突然スマイルになった瑛くんは、布団を投げ飛ばし私は生まれたままの姿に晒され慌てて両手で胸と大事な部分を隠した。
「――何で胸まで隠すんですか」
「はは」
「本当に可愛い人ですね。さ、分かったからお風呂に入りましょう」
「何で!?」
今の話の何処を分かってくれて、どこを理解したらそうなるの?
分からない。最近の若い人怖い。
「そんなプルプル震えても可愛いだけですよ。――おいで」
「や、やだっ」
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