4 / 10
第4話
◇
どれくらいこのツリーの前にいたのだろうか。突然鳴り出した着信音に、ぼんやりとしていた意識を戻された。
寒さで固まりつつあるその手で画面を見れば、表示されているのは慎也の名前。時間も思ったより全然経っていなかった。
「……っ、」
正直出たくはなかったけれど、慎也がいない間に帰ったから。心配してかけてきたんだろうし、無視することはできないと、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
「何で、帰ったの?」
「何でって、親が早く帰って来いってそう言うから……」
聞こえてくる優しい慎也の声に、また瞳が潤んだ。本当のことは言えないからさっき皆の前でついた嘘を繰り返す。
「そんなに急ぎだったわけ? コートもマフラーも忘れて帰るくらい?」
「うん……、ごめん」
「そのくせ、ぼんやりとツリーを眺める時間はあるんだな」
「え?」
まるで近くで俺を見ているようなその発言に一気に胸が高鳴った。それでもそんなことあるはずないと言い聞かせ、激しく動く心臓を静めるように胸に手を当てた時、後ろから携帯を取り上げられた。
振り返って見れば期待通り慎也がいて。まさか俺を追いかけて来てくれたの? と都合良く動く思考に戸惑いながら見つめると、持って来ていた俺のマフラーを首に巻いてくれた。
一気に温もりに包まれる。視界は相変わらず揺れているけどさっきまでとは理由が違う。だんだんと頬が緩んでいく。鮮やかに彩られたイルミネーションのせいか、一人でいるときはつまらなかったはずの雪のせいか、目の前にいる慎也もキラキラして見えた。
ともだちにシェアしよう!