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第4話

◇ どれくらいこのツリーの前にいたのだろうか。突然鳴り出した着信音に、ぼんやりとしていた意識を戻された。 寒さで固まりつつあるその手で画面を見れば、表示されているのは慎也の名前。時間も思ったより全然経っていなかった。 「……っ、」 正直出たくはなかったけれど、慎也がいない間に帰ったから。心配してかけてきたんだろうし、無視することはできないと、通話ボタンを押した。 「……もしもし」 「何で、帰ったの?」 「何でって、親が早く帰って来いってそう言うから……」 聞こえてくる優しい慎也の声に、また瞳が潤んだ。本当のことは言えないからさっき皆の前でついた嘘を繰り返す。 「そんなに急ぎだったわけ? コートもマフラーも忘れて帰るくらい?」 「うん……、ごめん」 「そのくせ、ぼんやりとツリーを眺める時間はあるんだな」 「え?」 まるで近くで俺を見ているようなその発言に一気に胸が高鳴った。それでもそんなことあるはずないと言い聞かせ、激しく動く心臓を静めるように胸に手を当てた時、後ろから携帯を取り上げられた。 振り返って見れば期待通り慎也がいて。まさか俺を追いかけて来てくれたの? と都合良く動く思考に戸惑いながら見つめると、持って来ていた俺のマフラーを首に巻いてくれた。 一気に温もりに包まれる。視界は相変わらず揺れているけどさっきまでとは理由が違う。だんだんと頬が緩んでいく。鮮やかに彩られたイルミネーションのせいか、一人でいるときはつまらなかったはずの雪のせいか、目の前にいる慎也もキラキラして見えた。

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