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第8話
けれど歩いているカップルや家族はそれぞれのお喋りに夢中で誰も俺たちを気に留めていない。それに少しだけ安心した俺は、繋いだままにすることにした。それから周りの目線以上に気になる、こうして俺に触れてくる慎也の心情を考えることに意識を集中させる。
俺にパーティーで何か嫌なことがあったと思っているから、それで落ち込んでると勘違いして、こうして優しくしてくれるのかな?
慎也は相手を思いやってくれるいい奴だから、きっとそうに違いない。
さっきから激しく壊れそうに鳴っている俺のこの胸は、都合のいいように考えて勝手に期待しているだけで、後で傷つかないように頭ではきちんと理解していなければならない。
慎也にとって俺は親友だ。男の俺を好きになってくれるはずなどない。心がダメならせめて頭で。それだけは分かっていなければ。
繋がれている手から俺のこの鼓動が伝わってしまわないように誤魔化そうと、わざとらしく慎也の手を強く握り返した。だけどそうしてしまうと、手を伝わずともこの気持ちが慎也にバレてしまうような気がして。ただそれだけが怖い。
「宙」
「何?」
「明日から毎日その手袋はめてきて。俺と遊ぶ時も必ず。俺もお前のマフラーしてくるからさ」
「うん」
考え事をしているせいか、慎也との約束を喜ぶことができない。俺にできることは、変な期待をするなと、何度も呪文のように唱えるだけ。
嬉しいのに苦しい。嬉しいのに泣きたい。
「てか何気にお前のマフラーと俺がもらったマフラーのデザイン似てない?」
笑顔の下に泣き顔を隠し、何でもないように振る舞う俺に慎也は笑顔でそう聞いてくる。
「……俺の好みで選ぶから、そりゃあ似ても仕方ないよ」
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