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4.伯父と甥の夏休み【前編】

 8月に入ってすぐ、数多は伯父の灯の家に向かった。同じ県内にあるので暑さにさほど違いはないが、荷物が多いので身に応える。頭にキャップを被り、腰にはシャツを巻いて。冷房対策に持って行けと母親に言われたのだ。いらないような気もしたが、数多は反論しない。素直に予備をもう一枚持ってきている。背中に背負ったリュックの中だ。他には数日分の着替えや宿題などがぎっしりと詰め込まれていた。中学の時に行った修学旅行の時より荷物が多い。何しろ一週間分の荷物だ。それは重い。滞在するのは二週間の予定だが、一週間経ったら一度着替えを取りに家に戻ることにしていた。とはいえ結構な量だ。傍から見たら家出少年に見えそうだ。無論、数多はそんなことは気にしないが。  駅に着いた時、灯と待ち合わせした時間まで10分以上時間があったので、駅中のカフェで時間を潰すことにした。しばらくぼけーっとアイスカフェラテを飲んで、ふとスマホの時計を見ると5分ぐらいしか経っていなかった。10分て結構長い。そう思っているとラインの通知音が鳴った。 トモル『今どこ?』 アマタ『〇△駅の中にあるスダバです』 トモル『今そこに行くから待ってて』 アマタ『了解』  そう入力した後、数多は不思議そうに小首を傾げた。 「数多くん!」  数分ぐらいで灯はそこに到着した。手ぶらで、急いできたのか少し息が上がっている。「咽渇いた」と言って自分もコーヒーを買ってくる。 「少し休んでいい?」 「どうぞ」  灯は数多の向かいの席に座ると、煽るように飲み物を咽に流し込んだ。それに合わせて咽ぼとけがウェーブするみたいに上下する。「生き返った~」と言って瞼を伏せると小さな蝶が羽ばたいた。 「まつ毛、長いですね?」 「そう?」  灯は無関心なことのようにまた一口飲み物をすすった。そういう数多もまつ毛が長いとよく言われれる。だが気にしたことはない。自分のことに無関心な二人だった。他人にもだが。 「用事早く終わったんですか?」  灯がなんで早く着いたのか、ここでやっと質問する。 「うん、大急ぎで終わらせた」 「仕事だったんですか?」 「いや、会社はもう休みに入ってるから」 「?」  覗き込むような視線。数多は顎に手を当て、軽く傾けた顔で灯の表情を窺った。彼の黒目勝ちな瞳が灯を飲み込もうとする。 「くすっ」と灯が笑声を漏らした。長いまつ毛に縁どられた瞼を伏せて、残りのコーヒーを飲み干すと「じゃあ、行こっか?」と腰を上げる。それぞれゴミ箱にゴミを捨てて、二人は店を後にした。ちなみに灯が飲んだのも数多と同じ、アイスカフェラテだった。  夕飯は灯の家の庭で食べることになった。キャンプにでも目覚めたのか、灯が外で食べようと言ったのだ。庭に出ると既にバーベキューコンロが置かれ、脇におそらく食材が入っているであろうクーラーボックスがあった。すごい、やる気である。その中から灯がでかい肉の塊を取り出した。何かのタレに漬け込んで茶色くなっている。それをコンロの網の上に寝かせた。 「もしかして用事ってこれのことだったんですか?」 「うん、これのこと♪」となんだか陽気な伯父であった。 「今日のために全部用意したんだ。数多くんが来た時、一緒にBBQしたいなと思って」 「ははは」  数多は歯を見せて笑った。かわいい人だな、と思って。

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