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2.「似た者同士」な伯父と甥。

 息子の数多(あまた)一人で旦那の従弟――息子にとっては伯父に当たる――の家に向かわせた。駅で待ち合わせして落ち合う。伯父が乗り付けてきた車で彼の家に向かった。  伯父の家は屋根が瓦のごく普通の二階建て家屋だった。動物は飼っていない。そこに一人で住んでいるようだ。独り身男の家にしては片付いている。というか殺風景だった。飾っているようなものは何も置かれていない。だが息子――灯にとっては甥に当たる――には気にならない。そっくりな性格の彼には。  リビングに通され、そこにあった食卓の椅子に腰かける。そこに灯がガラスのティーカップに入れたハーブティを運んできた。一つを甥の前に、もう一つを向かいの席に置く。頭を垂れてそれを一口すするその甥。向かいの席に伯父の灯も座った。 「数多くんは、高校生だっけ?」 「はい」 「聞いてるかもしれないけど、僕はバツイチで三十路のおじさんだ」 「はあ」 「お母さんから、何でうちに来ることになったか聞いてる?」 「まあ、なんとなく」 「そっか」と灯は納得したように首肯した。 「お母さん、心配してたよ。君があまりにも大人しいから不安になって僕に相談してきたらしい。でも僕じゃ君に何もアドバイスできないかもしれないけど、いい?」 「はあ」  数多は一応母親からそのことを前もって聞かされていた。普通だったら――ましてや思春期の子供がろくに知らない親戚の伯父さんになんでわざわざ会って話を聞かなくちゃいけないんだと反発するところだったが、数多は明らかにやってはいけないこと以外なら、だいたいのことは受け入れてしまう子供だった。この伯父に会うこともなんとも思わず承諾した。言われたからやっている、それだけだった。  母親は灯にアドバイスを求めていたようだが、息子の数多本人は伯父に相談したいことは何もなかった。数多は自分の性格にも生き方についても、日常において何も不自由さを感じていなかったのだ。だから何も訊きたいことがなかった。伯父の方もあえて質問を促してこない。二人は空気のように同じ時間をひとつ屋根の下で過ごした。数多はまるで最初からそこに居たかのようにその空間に溶け込み、灯もそれになんの違和感も覚えなかった。室内が暗くなって電気の明かりが必要になった頃、夕飯時まで居座ると迷惑だと思った数多は帰ることにした。来るときのように灯が車で駅まで送ってくれる。 「また来たくなったら、おいで。連絡くれれば車で駅まで迎えに行くから」  灯は笑顔で言った。切れ長で筆で描いたように綺麗な一重の瞳を少しだけ細めて。 「ありがとうございます」  数多も少しはにかんだ。黒目勝ちでくりっとした瞳をほんの少しだけ細めて。 「じゃあ、気を付けて」 「さようなら」  伯父はとても接しやすい人だった。母から自分(数多)に性格が似ていると聞いていたが、だからかもしれない。一緒にいてとても居心地がよかった。すぐに打ち解けた。同じ性質の水と水そんな感じだった。携帯の番号とラインのアドレスも交換した。これで気軽に会話できる。連絡するかは別として。  帰宅してから数多は、一応ラインでお礼を言った。 アマタ『今、家に付きました。今日はいろいろありがとうございました』  間もなくして返事が来た。 トモル『どういたしまして。でもごめんね。何もアドバイスできなくて』 アマタ『いえいえ』 トモル『またうち来ない?』  え?――の後何と言おうか数多が悩んでいると、ラインの通知音が鳴った。 トモル『僕たちは気が合うみたいだからもっと話がしたいんだ』  数多はまた『え?』と書き込んだ。 トモル『相談したいことがないならなくてもいいよ。ふつうの世間話とかでも』  数多は目を瞬かせた。長いまつ毛が羽ばたくように上下する。 トモル『君のお母さんは君の性格を変えたいみたいだけど、変える必要なんてないと思う』 トモル『君は今のままで十分いい子だし、何も問題ないと思う』 アマタ『・・・』 トモル『?』 アマタ『・・・』 トモル『もしかして引いちゃった?』 アマタ『・・・』 トモル『おじさんウザい?』  アマタ『少し・・・』 トモル『ごめんなさい・・・・・・』 アマタ『うそですww』 トモル『・・・』 アマタ『ごめんなさいww』 トモル『ライン怖い。伯父さんを弄ばないで泣』 アマタ『じょうだんですから! 本当はうれしかったです』 トモル『ならよかった。これで安心して成仏できる』 アマタ『死なないでください!?』  他愛もないラインのおしゃべりが続いた。その時間が数多にはとても楽しかった。自分がこんなに、ラインとはいえおしゃべりができることを自分も知らなかった。伯父さんといると(今はいないが)新しい自分を発見できる、そんな気がした。

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