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第3話 『アンティークの王子様』③

 思わず瞑っていた眼を開けると、目の前にいたのは予想通り、やたらガタイのいいイケメン外国人の王子様だった。  たてがみのような見事な金の巻き毛、鼻筋が通った完璧な左右対称の美貌、古典的な礼服に包まれた逞しい四肢と体幹。  まさに王子様――――というより、あまりにも立派すぎてむしろ帝王様とでも呼びたいくらいの威風堂々とした美丈夫だった。  その王子様が僕の胴体をがっちり跨いでいる。  きっとすぐにでも襲い掛かってくるんだろうと覚悟していたんだけど、今日の彼は愁いを帯びた眼差しでじっと僕を見つめてきた。青い瞳に正面から見つめられると、なんだかドキドキする。  何かを問いかけるように、彼は僕を見つめながら口を開いた。 『……××……▼』  何語なのかまったく見当もつかない言葉は、緩やかな抑揚があってまるで音楽みたいだ。  よくわからないけれど、僕はにこりと笑った。あんまり彼がしょんぼりしているから、少し可哀想になったんだ。  僕の笑顔を見てホッとしたように少し表情を緩めると、恐る恐ると言う感じで、王子様はそっと顔を近づけてきた。 「……ん……」  唇を柔らかいものが包み込む。真上から覆いかぶさるようにして王子様が僕に口づけていた。  誘うように上下の唇を優しく吸われる。力を抜いて唇を緩めると、その間をするりと舌が滑り込んできた。 「ん……っ」  尖らせた舌先が、歯と歯の間を抉じ開けるように入ってきたのに、思わず声が漏れる。同時に胸元を這う手が僕の服を脱がし始めたのにも気づいたけど、僕は抵抗しなかった。  力強い大きな手が、まるで贈り物の包装を解くように、僕の体から丁寧に服を引き剥がしていく。緊張に高鳴る胸を宥めるように、温かい掌が素肌を這い、肉厚の舌は奥に縮こまる僕の舌を絡めとろうとしてきた。  あ、あ……。  どうしよう、処女を奪われる女の子みたいな気持ちになってきちゃった……。  体中がぞわぞわして、少し怖くて――――でも快楽への期待も少しある。自分より圧倒的に逞しい相手に押し倒されて、キスされながら裸にされていくのは、こんなに恥ずかしくてドキドキするものなんだ。  恥ずかしいから嫌だって言いたいのに、ずっとキスされているから何も言えない。  ――――ああ、そうか。分かった。  王子様がずっと僕にキスしているのは、僕に「戻れ」って言わせないためなんだ。人形に戻れって言いたくなるようなことを、今から僕にするつもりだから。  そう思ったら、どうしてか急に下腹が疼き始めた。怖いのに、……硬くなってきた。 「あ」  腰が浮いたと思ったらあっという間にズボンを下ろされて、下半身が裸にされていた。  上のシャツはまだ袖を通したままだから、なお恥ずかしい。ちょっと待ってと言おうとしたけど、王子様は僕の口を塞いで、両脚を割り拡げた。その足の間に逞しい体が入ってきて、もう両脚は閉じられない。  王子様は一旦口を離すと、僕の目の前で指を二本、口に含んで潤した。 「それ……!」  その指をどうするのか、問いただすより早く、再び口を塞がれる。宥めるように優しく唇を吸うのは、前回僕が拒絶した行為を今からするからだ。間を置かずに、濡れた指先が僕のお尻の間に滑り込んできた。 「……っ!……」  窄まりを擽るように潤した後、ゆっくりと指が中に入ってきた。異物感はあるけど、痛くはないし、まだ気持ちよくもない。なんだか変な感じがするだけ。  指は一旦奥まで入って馴染ませるように円を描くと、ゆっくり抜き差ししながら体の奥を押してきた。 「ん、んっ……」  狭い通り道を慣らすように、指はゆっくりと僕の内側を開拓する。分かっていたけど、やっぱりエッチする気なんだ。僕は女じゃないのに、人間かどうかも分からない相手に今からここを犯される。――――やっぱり、こんなこと止めておけばよかったかも……。 「ンンッ!」  急に拡げられる感覚が強くなって、びくびくしていた僕はちょっと大げさなくらい竦みあがった。 『□△……□、△……』  顔を背けて震える僕を宥めるように、何度も頬に口づけされる。  息を吐いてゆるゆると体の力を抜くと、二本に増えた指がぬっと奥まで入っていくところだった。 「痛いの嫌だ……」  弱音を吐いた僕を、王子様は口づけで宥めようとする。優しくしてほしくて、僕は媚びるように口づけに応えた。舌と舌を絡ませて、ちゅっちゅっと音を立てながらキスをする。王子様は時々僕の閉じた瞼や鼻の先にもキスするから、僕もお返しにすべすべの頬に唇を寄せる。王子様の首に両手を回して、縋りつくような姿で一心に吸い合う。  そうやって何かに没頭していなければ、今からされることへの緊張に耐えられそうもない。 「あ、んん……!」  不意にお尻の奥から痺れるような波が胸元まで上がってきた。  あ……なに、これ。気持ちいい。  この間は欠片しか味わえなかった感覚が、ぞわりぞわりと連続して駆け上がってくる。太い指に体の中を押されると、ペニスの根元がきゅうっと疼いて、今にも射精してしまいそう。 「……ふっ、くっ……」  首にしがみついてプルプル震える仕草で、僕が気持ちよくなっちゃってることが王子様にバレた。  少し微笑った気配があって、指はますます大胆にその場所を撫でてくる。  あ、あ、そこ……おかしくなっちゃうよ……。 「気持ちい……」  指の動きに合わせて、腰が振れてしまう。  耳朶を甘噛みされると、背筋までぞくぞくして、体の中の指をいやらしく締め付けてしまった。はだけた胸元に王子様のもう一方の手が伸びてきて乳首を弄られると、もうイッちゃいそうになる。  ああ、なんてことだ。ペニスには指一本触れられてないのに、お尻と胸を弄られてイッちゃうなんて、あるはずない。  でも本当にイッちゃいそう……。もう、イク……! 「……出る……ッ!」  言葉は通じないけれど、僕は限界を訴えた。お尻だけで射精するとか、信じられないけど、もう出ちゃう。出ちゃう……! 「……ッ」  全身に力が入って、ついに昇りつめようというその瞬間――――指はするりと抜けていった。  途中まで昇っていた階段の先を失って、ホッとしたような残念そうな溜息が口から漏れた。気持ちよく射精できそうだったのに、意地悪だ。  眼を開けて抗議しようとした僕は、息を飲んだ。  鼻先が触れ合いそうなほど近くに、正視できないほど整った美貌があった。少し頬を染めて、愛しいものを見るように僕を見つめている。 『……×××……』  微笑んで、何か優しい響きの言葉がその唇から囁かれた。表情や声音から、その言葉の内容を推し量ろうとしていた僕は、両脚を深く折り曲げられて言葉を失った。  赤ちゃんのおむつを替えるような恥ずかしい格好。  それにさっきまで指が入っていた場所に、硬いものの先端が押し付けられてきた。 「あ……あッ!……ッ」  戸惑う間に、さっきの指よりずっと硬くて太いものが、お尻の入り口を押し広げて入ってくる。圧迫感に思わず逃げそうになるけど、上から両脚を抑え込まれていてちっとも逃げられやしない。 「いやだ……」  首を振って体を押し返そうとしたけれど、王子様は奥歯を噛みしめ、厳粛な表情で首を横に振った。止まれと言って止まれないのは、僕にだってわかる。――――でも、怖い。  どこまで拡げられるのか、果たして受け止め切れるのか。もしも裂けてしまったら、一体どうすればいいんだろう。  考える間にも王子様のアレはどんどん奥まで入ってくる。 「や……もう、無理……!」  本当に、もうこれ以上は無理だ。  両手に王子様の上着の襟を握りしめながら、泣き声を上げた瞬間、僕の中に王子様の全てが治まっていた。 「あぁ……」  腹圧が掛からないようにゆるゆると安堵の息を吐いた僕に、王子様はよく我慢したね、とご褒美のキスをくれた。  馴染むのを待つように、僕たちは体を密着させたまま、少しの間キスを交わした。唇を軽く吸い合うだけの優しいキス。それから舌を絡め合って、唾液を啜りあう深いキス。  性愛を誘う、いやらしいキスも。 『……×××……』  余裕のない掠れ声で王子様が僕の耳朶にそう囁いて、ゆっくりと動き始めた。 「あ……、ッ、あっ……」  どくどくと脈打つ太い異物が、僕のお尻の中を前後する。  中身を全部引きずり出されるような総毛立つ感触と、苦しいくらいに開かれて奥まで侵略される苦しさ。それが交互に襲ってくる中で、さっき指で教え込まれた快楽が徐々に際立ってきた。  射精寸前の切羽詰まった感じが、どんどん強くなっていく。  すぐにでもイッちゃいそうなのに、前に直接触れないせいか、イキそうでなかなかイケない。まるで寸前で焦らされてる気分。 「……イキたいよ……もう……ッ」  焦れて、片手で自分のものに触れると、王子様の動きが激しいものに変わった。  額に汗を浮かべ、眉をひそめたセクシーな表情で一心に腰を打ち付けてくる。乱暴で、荒々しい動きだ。  逞しい肉の楔が僕の体を穿つたび、体の奥から精液を絞り出されるような気がした。  手の中はもう自分の漏らした先走りでトロトロだ。何度か弾けて昇りつめた感覚があったのに、賢者タイムはやってこない。王子様に突き上げられるたびに、何度でも何度でも昇りつめる。  あ、あ……これって、もしかしてドライオーガズム……俗にいうメスイキってやつなの? 「もう、だめぇ……ぇっ、イッてる、イッてるよぅ……!」  お尻が止まらない。  王子様の腰の動きに合わせて、お尻を振って貪ってしまう。  叫びだしそうなほど気持ちよくて、恥ずかしくて怖いのに、気持ちよすぎて止まらない。――――深い深い、長い絶頂……! 『……ッ、×、×……ッ!』  王子様が押し殺したような声で何か言って、僕の膝の裏を掴むと、グッと前のめりに体重をかけてきた。腰がベッドから浮いて、お尻の穴が天井を向く。そこに、僕のものより一回り以上立派な屹立がずぶずぶと突き刺さるのが、間近に見えた。 「あ・あ・あ……ぁああ、ぁあ――ッ!」  体を二つ折りにされたまま、あまりの快楽に僕は体を震わせ絶叫した。透明な蜜が零れ落ちて、僕のお腹の上を伝い落ちてきた。  また、イッてる……!そこ、グリグリされるの、だめぇ……!だめぇッ! 『……ッ……!』  次の瞬間、百獣の王のような王子様も僕の体に深々と自身を埋めると、体の動きを止めてぶるりと胴震いした。  お腹の中に熱いものが吐き出されて、中をいっぱいに満たしていく。王子様の精液だ。  何かを耐えるように目を閉じた王子様の姿は、今まで見たことがないほど色気があって格好よかった。  そう思った途端、繋がったままの僕たちの体から、淡い光が浮かび上がった気がした。

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