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第6話 『白い蛇神さま』②

 一気に疲れてしまった僕は、早々にマンションに帰ってきた。  二基あるエレベーターのうち、右側のに乗り込んで最上階を押す。最上階のボタンは古い血糊でも付いてるみたいにどす黒いけど、僕は気にしない。時々接触が悪くて停まっちゃうけど、「動け~」って言いながらグリグリ押せば大丈夫。こっちのエレベーターを利用する住人はほとんどいないから、いつも直通だ。  ドアを開けて中に入るなり、僕は紙袋の中身をバスルームに入れて、浴槽に湯を溜め始めた。懇意にしている宮司さんからいただいた塩をたっぷり入れて、ソルトバスにする。血行が良くなって肩こりにいいんだ。  温めのお湯が溜まるのを待って、まずはリラックスタイム。少し冷えた手足が温まるように、お湯の中でマッサージする。まったく、ただ飯を喰らおうなんて欲をかくもんじゃない。とんだお土産を貰ってしまった。  体も温まって一息ついてから、やっと僕は足元に置いたそのお土産に視線をやった。  眼鏡をかけていないからよく見えないけど、そのくらいでちょうどいい。僕は洗面器にお湯を掬い取ると、湯船の中からそのお土産目掛けてお湯をかけた。  煤けた、黒っぽいお湯が排水口に流れていく。五、六回も繰り返すと大方の汚れも取れて、やっとそのエロいお土産の正体が明らかになった。  それは白い石で造られた、蛇の置物だった。  純白の地に、大理石にも似た淡いグレーの渦巻き模様が入っている。表面はつるつるに磨かれて、手触りは滑らかだ。鱗の模様も一つ一つ丁寧に彫られていて、滑らかな中にも確かな存在感がある。蛇腹の凹凸も精巧で、今にも動き出しそうなほどのリアルな質感があった。  きっと名のある細工師が造ったんだろう。呪いの品と言うより、御神体か何かのような風格がある。  蛇は昔の日本人にとって、鼠を退治してくれる有り難い存在だった。だからこの石造りの白蛇も、どこかの神社に御神体として祀られていたものかもしれない。丁寧な造りだし、とても綺麗だ。  しかし、問題はこのシルエットだ。  どう見ても、ど~う見ても、……勃起したアレなんだ。  鎌首をもたげて、ぬぅ、と立ち上がる頭部はエラの張った亀頭そっくり。首から下は一握りもある竿。持ち上がった首の根元で左右にとぐろを巻く胴体はタマタ……。  床に置いてみると抜群の安定力で、まさにそこに寝そべった男性の下半身が出現したみたいなビジュアルになっている。風呂場の床に突如チン〇が生えた感じ。  ――――やっぱり大人の玩具じゃないのか、これ。  僕はぼやける視界で捉えた姿に溜息をついた。  その上腹立たしいことに、王子様の事まで思い出してしまった。大きさ太さと言い、エラの張り方と言い、僕のより一回り以上逞しかった王子様のアレにそっくりだったから。  僕は湯船の中で赤くなった。  あの一件は、早く忘れようと思っているんだけど、なかなか上手くいかない。何せ僕の初体験だったし、すごく気持ちよかったから。  あれ以来、どちらかと言えば淡白な方だったはずの僕は、かなりスケベになった。  あの時の事を少し思い出しただけで、すぐに股間が硬くなってくる。……硬くなってきたら、触らずにはいられない。 「ん……」  湯船の中で、僕は硬くなったものを愛撫した。  先っぽの穴を指先で弄っていると、ぬめりが出てきたのが分かった。湯船のお湯の中に散ってしまいそうなそれを指先でくるくる塗り付けていると、次から次へと先走りが溢れてきて、お尻の奥も疼いてくる。  僕は洗い場の床から生えた石のチン〇……じゃなくて、蛇の置物を横目で見た。  蛇の置物は、本当に逞しい勃起そのものだ。子宝祈願の神社なんかによくある、男性器を模した御神体どころじゃない。まさに、ソレ、そのものなくらいリアル。  もしかすると、これはそういう意図で作られた物かもしれない。  子宝に恵まれますようにとか言いながら、色事に慣れた人がこれで女の人の好いところを探して、突いてあげるんだ。そうしたら初心者でもどこがいいのかよくわかるから、夜の生活が充実して子供をたくさん作れるでしょ。  村を繁栄させるための、一種の性教育だよね。 「あ……ん……」  あの蛇の頭にお尻の中を突かれる自分を想像して、僕は湯船の中で身悶えた。  初夜の床の中で、まだ不慣れな僕はあの蛇を手に持った村の男達に取り囲まれた。 「……いや、だ……」  石の蛇を入れられるなんて、すごく怖いし嫌だ。でも、これを受けないと一人前とは認めてもらえない。それにこの蛇は御神体だから、ちっともいやらしいことなんかなくて、神聖な儀式なんだ。  そう諭されて、泣く泣く僕は床の上に横たわる。 「……あっ……」  旦那さんになる人の前で、僕は裸にされて、余計な抵抗をしないように両手を頭上で押さえつけられた。皆に見られているのが恥ずかしくて、硬く目を瞑る。  開いた両脚の間に蛇を握ったおじさんが体を割り込ませてきて、太い指で入り口に油を塗りつけた。あ、あ……それだけでお尻が疼く。駄目、指を入れないで。気持ちよくなっちゃう……。  指南役のおじさんは入り口を念入りに指で解すと、すぐにそこに蛇の頭を押し付けてきた。こうやってするんだぞって見せつけながら、硬い蛇の頭を力強く押し込んでくる。  この村では、旦那さんに抱かれるより先に、蛇のご神体に犯されちゃうんだ。しかもすごく立派で硬いやつに。  蛇の体にも油が塗られているから、あまり痛くはない。でもカリ高な頭が潜ってくると拡げられる感じが強くて、思わず身悶えてしまう。体を捩って逃げようとしたら、腕を抑える力が強くなった。  集団レイプされてるような気分。怖いんだけど、でも……。  太い頭の部分がずっぽり収まった途端、恥ずかしいことに僕はすぐに感じ始めた。お尻の奥がキュンキュン疼いて、ぶっとい蛇を締め付けてしまう。力を抜きなさい、って言われたけど、駄目、無理……。 「見ないで……」  恥ずかしくて足を閉じようとしたら、皆してきたことなんだから我慢しなさいって厳しく叱られた。  仕方なく、僕は皆に見られているのを意識しながら、自分から足を開いた。隠しようもないほど僕のペニスは張りつめて、先からは恥ずかしい液が零れ落ちている。  その様子を見て安心したように、おじさんは硬くて太い蛇を一気に体の奥までズブズブと進めてきた。  神聖で淫らな儀式を思い浮かべながら、僕は扱く手の動きを徐々に速めていった。 「は、ぁん……」  指でお尻に触れ、指の腹でそこをクニクニと揉む。実際に何かをここに入れるのは怖くてできないけど、こうやって入り口を揉みながら前を擦るとすごく感じる。  高まってきて、もう弾けてしまいそうだ。 「イッちゃう……」  想像の中で蛇を操るおじさんに、僕は限界を訴えた。 「そこ……そこ、気持ちいい……っ」  大きな蛇の頭が体の内側をグリグリと押しながら、感じる場所を何度も往復する。  もうどうにも我慢できなくて、イキそうだって伝えたら、やっと蛇を抜いてもらえた。でもホッとする間もなく、旦那さんになる人がすぐに僕の足の間に入ってきた。  冷たい石の蛇の代わりに、今度は熱く脈打つ肉の棒が押し当てられた。御神体で昂ぶった体を、次は伴侶となる人が拓く。今からが初夜の本番だ。僕たちがうまくセックスできるかどうか、村の皆が見守ってくれている。  恥ずかしいけれど、これでやっと僕も一人前だ。  子供をたくさん産めるように、今からいっぱい種付けしてもらうんだ。  生身の体が僕にのしかかり、熱く猛ったもので僕の体を抉じ開けようとする。僕は息を吐いて力を抜き、ドキドキしながらその瞬間を待ち望んだ。  ――――そんな想像をした途端、熱が一気に高まった。 「――――あ!……ぁあッ……ッ!」  射精する瞬間、僕は湯船から立ち上がってそれを放った。久しぶりのオナニーはめちゃめちゃに気持ちよくて、扱くほどに大量の精液が飛び散っていった。  一人遊びで火照った体を冷たい洗い場の床に伸ばして、僕は暫く転がっていた。なかなか呼吸が整わない。バックの良さを知ってしまったせいか、近頃射精時の快感が深い。それでいて、もっと気持ちよくなれるはずだっていう欲求不満もあった。  後ろは一度覚えると病みつきになるっていうけど、確かに忘れられないくらい気持ちよかった。王子様が去った今、僕がそれを味わうことは二度とないのが残念なくらい。  やっと息が整う頃にはすっかり肌寒くなってしまって、そろそろ風呂を出ようと、僕は上半身を起こした。  そう言えば、あの蛇の置物にも僕の精液がかかってしまったかもしれない。罰が当たりそうだし、捨てる時に恥ずかしいから、ちゃんと洗い流しておかなくちゃ。  そう思って床を見回したんだけど、――――ない。  さっきまで確かにここにあって、湯船からお湯をかけて洗っていたはずの石の置物が、無いんだ。  そんなに広くもない、普通のマンションのバスルームだ。あんなに存在感のある重いものが消えてなくなるはずがない。  もしかして僕の一人エッチに呆れて、早々に御木本先生のところに帰ってしまったんだろうか。だとしたら申し訳ないけど、仕方のないことだ。  さっさと気持ちを切り替えて、上がり湯を被ろうと湯船を覗き込んだ僕は、そのお湯の底に蛇が沈んでいるのを見つけた。  あれ? 僕、湯船の中に入れたんだっけ?  ともかく引き上げようと、湯の中に手を入れると水面が歪んで、蛇が泳いでいるように見えた。――――いや、見えただけじゃない。  それは目の錯覚じゃなかった。  底に沈んでいた白い蛇はうねりながら僕の腕を這い上ってきて、僕の体に絡みつき締め付けてきた!

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