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――古ぼけた外観の旧講堂の扉はギィギィと鈍い音を立てながら開いた。鍵はかかっていない。
うっすらと白く埃が溜まったフローリングだが、その中に真新しい足跡を見つけて肩をすくめた。
話が通じる相手なら良いんだけど。
もし不良のたまり場になっていたら一貫の終わりだ。話題の強姦被害者となっておしまい。
もし、そんなことになったらさっさと舌を噛み切ってやるが、相手の股間を潰す勢いの気兼ねで行きたいものだ。
開けたエントランスホールから足跡はホール内へ続いている。埃をかぶったソファーを横目に見ながら、ホールへ続く扉を開けて、隙間から体を滑り込ませた。
「よぉ、お嬢さん」
「ッ!?」
横から伸びてきた腕が眞白の細い柳腰を掬う。
「今は授業中だろ。イケナイ子だなぁ」
低く、耳ざわりの良い声が耳元で響いた。
吐息が首筋を掠め、不快感が増す。
「僕はお嬢さんでもなければイケナイ子でもない。さっさとこの腕を離してくれる」
「それは無理な話だ。俺のテリトリーに入ってきたのはお前だろ。テリトリーに入ってきたの獲物を捕食して何が悪い」
傲慢不遜もいいところ。
愉悦を含んだ声色に眉をギュッと顰め、腰をがっしりと掴む腕に爪を立てる。悪趣味な生徒によって、綺麗に整えられた桜貝が容赦なく不審者の腕に突き刺さる。
「まるで子猫ちゃんだな」
「ッ馬鹿にするのもいい加減に……!」
「だが、そんな強情な所も可愛いな」
首筋を、べロリと生暖かいしめった感触が這う。
背筋が粟立ち、唖然とした眞白は腕を大きく振りかぶって不審者の顔を狙うも、いとも簡単に防がれてしまった。
男にしては華奢であるが、大人しくヤラれるつもりもない。股間を潰す気兼ねで、だ。
掴まれた手首をひとまとめにされ、頭上に引き上げられる。
そこで初めて、不審者の顔を見た。
「ははっ、お転婆なのもなお良い」
鋭い八重歯。鋭い瞳は色素が薄く、彫りの深い顔立ちも相まってハーフのように見える。眩い金髪から覗く耳たぶにはシルバーのピアスがシンプルに飾られていた。
美的感覚の研ぎ澄まされた眞白が見惚れてしまうくらいには、不審者の顔は整っていた。
精悍で端整な顔立ちは、彼の性格を表すかのように凛としていて、大きな口元が笑みに歪められると鋭い歯が覗いた。
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