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指定の校章がついたワイシャツを着ているのを見れば学園の生徒だろうことはわかったが、ネクタイを締めていないので学年が分からない。
眞白をすっぽりと包み込んでしまえる体格で、一学年とは考え難い、恐らく三学年だろう。
同じ学年ならどこかで一度見ていてもおかしくないが、これだけ顔が整っている生徒を忘れるなんてことなかなかできる事じゃない。
「……風紀委員を呼びますよ」
「俺が風紀委員だと言ったら?」
「すぐにバレる嘘をつくなんて、貴方の脳みそは虫と同じなのかな」
「ひでぇいいようだなぁお嬢さん」
美女と野獣、赤ずきんと狼のようだ。捕食される側と捕食する側。
この男は絶対的強者、上に立つ者としての風格がある。
なにか格闘技でもやっているのか筋肉がつき、均整の取れたがっしりした体格に、眞白より頭二つ分高い背。
両手首は大きな手のひらでひとまとめにされて逃げることは敵わない。
色の薄い瞳は肉食獣のように鋭く眞白を捉えている。
「お嬢さんじゃない」
「お嬢さんみてぇな面してるからなぁ。その顔じゃあ高等部に進学してから苦労しただろ」
「貴方には関係の無いことだよ。それに、僕は立派な男だ。女扱いなんてまっぴらごめんだね」
声に滲んだ嫌悪に、目を丸くした男は何が面白いのか喉を転がし嗤った。
悪魔の哄笑より邪悪な笑い方に内心ドン引く。
容姿だけを見て、女扱いしてくる奴は多い。見た目で判断する愚かで無礼者には苛烈さをプラスして追い払ってやるのだ。
そうすれば、大抵の奴は顔を引き攣らせて去っていくのに、この男は興味心を募らせて瞳を光らせるのだ。
生徒会役員にも引けを取らない自信があった眞白は、初めて勝てないと、他者に大して思った。
「……いい加減に、」
「まるで虫を誘う誘蛾灯だな」
ポツリ、と呟かれた言葉に閉ざした口を、ぱくりと食べられる。
「!?!?」
柔く、赤い唇に吸い付かれる感触に目を見張り、一瞬抵抗すら忘れてしまう。
「ッは、な、ぁっ」
いつの間にか背中は壁まで追い詰められ、体を押し付けられる。
背が大きければ、不審者野郎のほうが足も長く、ふとももの間に膝が割り入れられた。緩く、膝が揺れて性感が高められていくのも腹立たしい。
健全な男の子が性器を弄られて感じないわけがない。
羞恥心と苛立ちで顔が赤くなる。キスなんてしたことない。呼吸の仕方なんてわからない。
いつまでも離れていかない男に、酸素を求めて薄く開いた隙間から熱く滑った肉が入り込んでくる。
「ンッ、ぅん、ふぁッ」
上顎を撫でられて、くすぐったい感触に気の抜けた声が溢れていくのを止められない。
懸命に酸素を求めて口を開けば、舌が絡み合う水音が嫌でも耳に入った。
「ぁ、も、息できなッ」
「――はッ、キスで溺れそうだなぁ」
透明の糸がふたりを繋いでぷつりと途切れた。
新鮮な空気を求めて、大きく呼吸をする眞白は自然と男の胸にもたれかかっていた。
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