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衣服越しでも聞こえる、大きな心臓の音。少し鼓動が早いのが、なんだかこの男らしいと思えてしまった。
「名前は?」
「ッへ、んたい野郎に教える、名前なんか、ない」
「気丈だな。だが、それがかえって俺みたいな変態を興奮させるんだぜ」
するりとリボンタイを抜き取られる。
まぶたに口付けられ、涙の滲んだ目尻を吸われた。こめかみ、頬、鼻先、と順番にキスが降り、無防備な細い首筋に男は噛み付いた。
まるで吸血鬼のように、ガジガジと首筋に噛み付く男に抵抗なんてできるわけない。
もしかしたら人間の皮をかぶった化物で、自分はここで文字通り食べられてしまうのだとおかしな想像すらしてしまう。
せめて、声を漏らさぬようにと口を引き結ぶ眞白を面白そうに目を細める。痛みに歪める表情はいやらしく、男の欲を誘う顔だ。
艷やかな黒檀の髪に白濁をかけてやりたい。赤い唇にペニスを突っ込んでしゃぶらせてやりたい。
そう思わせてしまう色香があるのだ。
「今日はもう帰るといい」
くっきりとついた噛み痕を名残惜しげに舐めあげる。パッと、手を離せば、バチンっと頬に衝撃が走る。
ぽかん、と。間抜けに口を開けた顔すらかっこいいなんて不公平だ。
つい手が出てしまった。大きく振りかぶった手のひらは、変態野郎の頬を見事に打ち鳴らした。
「ッ貴方に言われなくったって! こんなとこ二度とくるもんか!」
平手してしまった勢いで啖呵を切り、踵を返して旧講堂を飛び出した。
「またな」
言われて、襟に手をやる。
噛まれたところはジンジン痛みを訴えているし、リボンタイは変態野郎に取られたままだ。
ネクタイもあるが、あれは自分には似合わない。奥歯を強く噛み締めて、後ろを振り返り睨みつける。
ひらひらと振られる手のひらには青いリボンタイが握られていた。
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