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06*副隊長と千十代朔太郎という男

  「それ、風紀委員長の千十代朔太郎(ちとよさくたろう)じゃあないか?」  ぱくり、とケーキを口に運んだ書記様親衛隊隊長殿は、愛らしい顔で眞白に微笑んだ。 「神出鬼没。お姿を見ることができれば願い事が叶うんだって」 「……なんですか、そのレアキャラみたいなの」  書記様親衛隊で占拠しているサロンで毎週金曜日の放課後に開催されるお茶会は、扉の内鍵を締めることで平穏を保っている。  親衛隊を見れば「リョーヤたちの自由を奪って何が楽しいんだ!!」と大声で特攻を仕掛けてくる輩がいるのだ。  その名をシメジ茸と言う。ちなみに、リョーヤとは生徒会長のお名前である。  いや、今はそんなシメジ茸のことなんかどうでもよくって、あの旧講堂にいた変態野郎が、風紀委員長?  冗談はほどほどに、と笑みを零した眞白に隊長殿が首を傾げる。……え、マジ? 「あぁ、今日朝からご機嫌ナナメだったのは千十代風紀委員長が原因? リボンでも取られたの?」 「……」  ムスッと口を閉ざして眉間に深いシワを刻んだ眞白に、ぱちくりと飴玉みたいに目をまん丸くする。  書記様親衛隊に所属している理由だって謎な副隊長が、他者に対してこんなにも感情を露わにするなんて。  お茶会には、忙しい書記様も毎回いらっしゃっていた。  書記様は、親衛隊を性処理道具のように扱う会長とも、いないものとして扱う副会長とも違い、親衛隊の隊員ひとりひとりと会話をして、存在を認知してくださっていた。  先週の金曜日は転入生の手続き等で業務が忙しいのだろうと、皆はまだ心持ち穏やかでいられた。だが、今日、書記様はいらっしゃらない。  黒い髪が素敵だ、と誉めてくださったから、毎日面倒くさいのを我慢して毛艶を整え、コンディショナーからドライヤーのかけ方まで手を尽くしているのに。見てほしい人がいないなら、する意味もない 「急に風紀委員長のお話しなんてどうしたの?」 「……本当に、風紀委員長なんですか?」  あの変態強姦魔が? という一言は喉奥にしまい込んだ。

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