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 噂をすれば、「ピッ」とカードキーが翳された音がする。 「ここか! マサタカの親衛隊が集まっているのは!」  天上が高く、静まり返ったサロン内に大声が響いた。反響して耳が痛い。  毒を撒き散らす茸の登場だ。  ついに唯一の安らぎの場所すら奪われてしまう。  ぐっ、と眉間に刻まれたシワが取れなくなってしまいそうだ。 「……久栗坂様、いらっしゃいませ。我々親衛隊隊員一同、貴方をお待ちしておりました」  嫌悪対象である茸がいるにもかかわらず、書記様に向かって微笑むことができる隊長を心底尊敬する。  僕だったら、一も二もなく罵詈雑言が飛び出すだろう。むしろ今にも飛び出しそうだ。  茸を先頭に、その隣に並んだ書記様。斜め後ろを着いてくる俺様生徒会長に腹黒副会長、チャラ男会計と小悪魔庶務の四人。 「姫、どうして俺の親衛隊に来たかったんだ?」 「成敗してやろうと思って!」  思わず、「はぁ?」と低い声音が出た。何を言っているんだこの茸は。 「マサタカ、先週もお茶会? に行こうとしてただろ! 強制されてのお茶会なんて楽しくねぇよ! 親衛隊って、リョーヤたちのこと、束縛? して友達も作らせてくれないんだろ? そんなのおかしいじゃんか!」  暴論である。  お茶会は毎週開催しているが、書記様を強制してお茶会に参加させているわけではないし、友達を作るんと交友関係に口出しもしていない。  すべての枕詞に「書記様親衛隊は」と付くけれど。  よその親衛隊事情など知らないが、会長のところは過激派と有名だ。  茸はきっと、会長親衛隊の被害を受けて暴論を振りかざしているのだろうが、あの野蛮人チワワたちと一緒にしないでほしい。  親衛隊にもそれぞれ特色があるし、何より書記様親衛隊は穏健派で有名なのだ。  いくら書記様が茸に付きまとわれていても、制裁を下したことなんてない。もっぱら、会長と副会長の親衛隊の仕業である。  対象生徒が毒を浴びていない他の親衛隊は息を潜めて様子を伺っている。茸がいつ毒を撒き散らすかわからないのだ。 「姫……! 俺のことをそんなに考えてくれるのか……!」 「当たり前だろ! オレたち友達じゃんか! 友達が困ってたら助けるのが友達なんだ」  そもそも、姫ってなんだ。なんで姫。男の、タワシ頭の小汚い男子高校生のあだ名が姫。  笑い飛ばせない冗談である。  姫(笑)の友達発言に感激の声を漏らす彼らは頭が湧いているのだろう。  もしかしたらそのうち茸が生えてくるかもしれない。気をつけなければ、すでに感染は始まっている。  隊長殿の言葉なんて聞こえていないとばかりに、書記様は茸に声をかけている。  通常状態なら「俺のためにわざわざありがとう」と微笑みかけてくれるのに。 「おい! 隊長ってのは誰だ!」  書記様たちに向かっていグッと拳を握り、自身を鼓舞した茸は親衛隊に向き直り、耳障りな大声を上げる。  目の前にいる麗しい先輩が隊長だと考えないのだろうか。 「僕が隊長だけど、あまり大きな声を出さないでくれるかな? 繊細な子たちが多いんだ」 「何が繊細だ。ヤることしか考えてねぇ親衛隊風情が」  カチン、ときた。

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