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まったく、久栗坂は本当に馬鹿なことをしたものだ。だが、その馬鹿のおかげでとっても良い拾い物をした。
生徒会役員の中じゃあ確かにまともだが、何の面白みもない男である。
良く言えば臨機応変で、悪く言えば流されやすい性格だ。成績と顔面の良さだけで生徒会入りをした、本来であれば埋没するだろう個性だと、朔太郎は思っている。
大方、上辺だけの宇宙人の言葉に惑わされ、会長や副会長たちも着いて歩いているからよく考えもせずに親衛隊をないがしろにしたのだろう。
書記親衛隊は強制解散か、親衛隊隊長の性格を考えれば自主的に解散するのが想像できる。
閑散とした放課後とは言え、誰もいないわけではない。
時折すれ違う生徒は、超SSRモンスター並の風紀委員長の出現にある生徒は頬を染め、ある生徒は瞠目し、腕に抱かれた眞白を二度見した。
放送・広報委員会発行の学校新聞で明日の朝、もしくは速報ですぐさま学園中に知れ渡るだろう。きっと今週いっぱいはこの話題で持ち切りだ。
「雪美眞白の親衛隊脱退」「書記親衛隊解散」「風紀委員長と雪美眞白の関係」だろうか。
数日もすれば眞白の親衛隊が設立されるだろう。眞白だけじゃない、書記親衛隊の隊長も人気のある生徒だ。所属していた隊員は隊長と副隊長の親衛隊を設立するにあたって二分化し、おそらく他の親衛隊からも脱退者が現れる。――荒れるだろうなぁ。
――書記親衛隊に部下を潜り込ませておいてよかった。ことさらに、眞白からの覚えもよく、気にかけられる存在にまでなったのは気に食わないが、ある意味僥倖であった。
「若、久栗坂匡孝親衛隊の鎮圧化は無事終了しました」
「よぉ、早かったな透。宇宙人はどうした?」
「喚き散らして業務に支障を来すので、生徒会もろとも退場願いましたよ」
銀縁眼鏡をかけた涼やかな黒髪美人は風紀委員会副委員長にして、千十代朔太郎の右腕・百々瀬透 だ。
制服を着崩しまくった朔太郎とは対照的に、ワイシャツのボタンは一番上まで留め、しっかりとネクタイを締めている。
背筋をピンと伸ばした立ち姿はまさに風紀委員にふさわしく、誰もがなぜ百々瀬透のような優等生が千十代朔太郎に従っているのか首を傾げた。
「……それ、雪美眞白じゃあないですか」
呆れた、胡乱げな目で腕に大人しく抱かれている眞白を見る。苛烈さは影を潜め、そうしていれば美貌も相まって眠り姫みたいだ。
「可哀想に、階段の隅で震えて鳴いてた子猫ちゃんだ。可愛いだろう」
「可愛い、って枠に納まる珠ですか。……え、もしかしてついにさらって」
「拾ったんだって言ってんだろうが」
ドン引きした表情の右腕に喉が詰まった。
確かに、風紀室でさんざん可愛い可愛い言っていたが、流石に学生のうちから誘拐を企てようとは思わない。「学生のうちは、ですか」と繰り返した百々瀬を黙殺する。
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