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 とんでもなく面倒くさいクラスメイトだが、それでも、嫌われていないのは、何事もなく普通のときは会話ができるからだ。  我が儘で自分勝手だけど、それなりに人に優しくできるのだ。気を使うのが上手く、感情を掬い上げるのが得意な眞白に相談事をしているクラスメイトもよく見る。 「……あぁ、そういうこと。君は朔太郎のことが心底好きなんだね。だから、かまわれてる僕に嫉妬してる。ねぇ、そうでしょ? 違う?」  イタズラに目元を笑みに歪めた眞白に面倒くさくなる予感しかしない。たくましい腕の中から身を乗り出そうとするが、落ちても知らないからな。  あと、不機嫌そうに口を結んでいる委員長に気づいてほしい。 「もう、なんでもいい。若、私は一足先に風紀室に戻ります。あまり寄り道せずに来て下さいよ。今日は打合せの日ですからね」  口早に告げ、さっさと踵を返して行ってしまった百々瀬に唇を尖らせた。 「……お姫様は俺よりも透のほうが気になるようだなァ」 「別に。そういうのじゃありません」 「じゃあ透にばっかかまってねぇで、俺のこともかまってくれよ」  なんだそれは。拗ねた子供みたいなことを言う朔太郎に溜め息が溢れた。朔太郎に捕まった時点で、逃げ出そうという選択肢はすでに捨てた。どうせ逃げられないし、逃がす気もないのだから。かまう時間はこれから降って沸いてくるというのに、今このときすら我慢できないとはなんと心の狭い男か。 「ここで襲ってもいいんだぜ?」 「なぁに、それ。貴方強姦魔になりたい願望があったんですか。今じゃなくても、どうせこれから一緒の時間は増えるのだから、あまりそう嫉妬しないでください。僕、束縛されるのは嫌ですよ」 「……束縛は嫌か」 「嫌に決まってるでしょ。束縛しなければ、あとはどうでもいいですよ。好きにしてください」  つれない返事だ。  気まぐれで無関心。顎下を撫でたらゴロゴロ鳴くだろうか。  朔太郎は自分自身を、蛇のようだと思っている。執着心が強く、嫉妬深いし、無駄にプライドも高い。ただの蛇ではなく猛毒を抱えた蛇だ。狼や、猛獣のような男だと周りにはよく言われるが、そんな格好いいモノじゃない。狡猾で卑怯な、狡賢い、矮小な存在であると自負している。  だからこそ、どこかの鳶に掻っ攫われないか不安でしょうがない。すぐ手の届く場所にいて、守らなければ。 「なぁ、俺の気持ちは伝わってるんだよなァ?」 「気持ち? なんのこと? 可愛いだの可哀想だの、散々喋っていたけれど、それ以外は聞いていませんけど」  つい足を止めた。  そうか、言ってなかったか。 「眞白、好きだ」 「……ありきたりな言葉をありがとうございます。でも、僕は貴方のことを何にも知らないし、好きか嫌いかで言ったら普通ですよ」 「そうだな。だが、抱き上げても逃げ出さないくらいには俺のことが好きだろう?」  前向きすぎるポジティブ思考に虫けらを見る目をしてしまった。この男は太陽に焼かれても死なない気がする。死んでも死なないだろう。  同性愛に偏見はない。この学園で寝て過ごしていれば今更すぎる。朝飯前の問題。 中等部の頃から書記親衛隊に所属していた眞白は、恋愛経験が皆無だ。好きだ惚れただのと言い寄られたことは何度もある。だって容姿が素晴らしいんだもの。だが、首を縦に振ったことはない。  恋愛は苦手だ。感情は人を支配する。恋愛感情に、愛に、狂ってしまった人を見たことがある。 「……貴方は、愛に狂ってしまいそうだね」  静かすぎる声が、悲しげな言葉が耳に響いて頭を離れなかった。  

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