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15*元副隊長の日常と愚か者

   学園で最近の話題は「風紀委員長」である。  一日に一度視界に入れられれば良かった風紀委員長の御姿を、近頃は何度も見ることができると、風紀委員長非公式親衛隊は歓喜に咽び泣いている。  よく現れる食堂と、第四校舎の後頭部二学年のフロアだ。  しかし風紀委員長の出没情報が出回ると同時に、彼の風紀委員長様の隣に、孤高の華たる雪美眞白の姿をよく見かけるようにもなった。 「眞白、今日はどうする?」 「オムライスが食べたいです」 「そうか。すぐシェフに言って最高級のオムライスを」 「馬鹿な会話は今すぐやめて委員長は書類に決裁してください。雪美も、だらだらするなら教室へ戻れ」 「百々瀬が冷たい」と揃ってむくれる二人は案外似た者どうしなのかもしれない。若干現実逃避気味に百々瀬はこめかみを揉んだ。  誘拐されてきた眞白の居場所は風紀室内にある応接セットのソファとなった。  もっぱら放課後や、気に入らない教師の授業になれば風紀室にやってきてお茶菓子を食べながら昼寝をしたりしている。  当初は孤高の華である眞白の存在にドギマギしていた風紀委員たちも、一週間すれば日常として受け入れ慣れてしまった。 「あのクソオヤジ、毎回毎回セクハラしてくるから嫌いなんだよね」  クッキーを頬張りながら読書に勤しんでいた眞白がぽつりと零した一言に空気が凍る。 「……あのハゲ」  ぼそっと呟いた朔太郎に、言い知れない寒気が委員たちを襲う。 「若、あまり教師に対しては」 「だがよぉ、俺の子猫ちゃんにちょっかいかけるってことは股にぶら下がったモン切り取って欲しいってことだろう?」 「確かに卑しいブタではありますが、若が自ら動かなくとも」 「いつから俺に意見するようになったんだ?」  にぃんまり、と鋭い瞳を弓形に歪めた朔太郎の圧に言葉が途切れる。 「あのハゲは以前からも問題視されてただろう。そろそろ切ってもいい頃合だ」  風紀委員会は現在、宇宙人による学園内の器物破損や暴力事件の後処理に追われている。  これといって大きな行事・イベントもなく、通年であればこの時期はさして忙しくないはずだったのに、事務係りの机には書類が山積み、委員長の机にも決済待ちの山が二つ――たった今三つ目が形成された。

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