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 つまるところ、超絶忙しいのだ。  処理しても処理しても消えない書類の山。フラストレーションは溜まり、宇宙人へのヘイトも高まっていく。  確かに教師としての素行は最悪であるが、委員長のお気に入りに手を出したハゲ教師は罪深い。  宇宙人は本当に余計なことしかしない。  人気生徒を侍らせ、巡回するかのように学園内を歩き回ってはいちゃもんをつけ、親衛隊の集会に特攻をかまし、窓ガラスを割るに始まり暴力行為は当たり前。  生徒会室にはまるで我城のように立ち入って、注意しようものなら自分が被害者ぶる。はた迷惑で悪質極まりない当たり屋である。 「あのクソオヤジを処分したら、僕がここに来る理由もなくなるけれど。というか、それ以前に僕はここでくつろいでいていいんでしょうか」  ふと、思い出したように言葉を零した。  思いのほか風紀室の居心地が良いから立ち寄ってしまうが、本来であれば該当する委員会に所属していない生徒が各々の委員会室に用もなく立ち入ることは校則で禁止されている。  校則を取り締まり、風紀の乱れを正す風紀委員会が率先して破ってしまっているのは由々しき事態である。  委員長が連れて来たから、と見過ごしていたが改めて考えれば宇宙人と似たような状況下であると気づいた風紀委員は顔を青くした。  業務を邪魔するだとか、宇宙人のように喚き散らしたりしないのは当たり前だが、校則を破っているのには違いない。 「……補佐役、っていなかったよなァ」 「やりませんよ。やっと副隊長の役目から解放されたんだもの。自由を謳歌させてよ」  喉を詰まらせたのは朔太郎だ。  一も二もなく断られてしまった。切れ長の目尻を下げた表情は迷子の子犬のようだ。 「このクッキーってどこの?」 「え、あー、たしか副委員長が買ってきたんじゃなかったか?」 「……文明屋の期間限定のものだ」 「また食べたいな」  そういうのは委員長に言え、と歯噛みしながら口を噤む。 「いくらでも買ってこよう。他に食べたいものは?」 「これがいいです。あとはいらない」  しばらくは茶請けがクッキーになるのが決定した。 「お茶も美味しかった。淹れてくれたのはだぁれ?」  こてん、と首を傾げた眞白の近くにいた委員は頬を赤らめる。苛烈さが鳴りを潜めていると、花の妖精にしか見えない青年だもの。  女の子と触れ合う機会のない生徒が、綺麗で可愛い生徒に心を寄せてしまうのも仕方ない。  眞白の問いにそろそろと手を上げたのは、応接セットから一番遠い机に座った小柄な生徒。「あれ、」と見覚えのある姿に目を瞬かせた。 「ユズ君?」 「あ、あはは、先週ぶりです。副隊長……じゃなくって、先輩」  口の端を引き攣らせてぺこりと小さな頭を下げたのは、書記親衛隊で副隊長だった自分の専属お茶要れ係りをしていた可愛い後輩。 「風紀委員会だったの?」 「じ、実は、そうなんですよぉ」  まさか、可憐で過激な副隊長のことが心配で心配で心臓が止まってしまいそうだった風紀委員長が、書記親衛隊にいても可笑しくない容姿の自分を潜入させていたとはとても言えない。

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