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ユズ君、とよばれるたびに委員長からの視線は強くなり、胃はどんどん痛くなった。
「じゃあまたユズ君にお茶を淹れてもらえるんだね」
ふんわり、と心底嬉しそうに笑みを浮かべた眞白の周囲に花が飛ぶ。
ユズ君はもちろん、近くにいた風紀委員にまで飛び火した微笑みに赤面する生徒が多数。
「ちょっとトイレ」と駆け出した委員はあとから訪れる委員長の恐怖に背筋を震わせながらも、前かがみになって最短距離のトイレを目指した。
「杠葉 、あとで校舎裏」
「後輩に八つ当たりなんてみっともないことやめてくださいよ。それに、朔太郎は僕に一杯ご飯食べさせてくれるんでしょ?」
「おなかいっぱいにごはん」
「そう。僕の白い腹部が、パンパンに膨れるまで中に詰め込むの」
うっそりと、朔太郎にだけ向けられた目に、魔性といわれる由縁を見た。いっそ犯されてしまえ、と百々瀬は思う。
意味深長なやり取りをしていながら、不思議なことに付き合っていない二人。他所でやれ。雰囲気に当てられる生徒が可哀想である。
壊れたロボットみたいに「おなかいっぱい」と繰り返す朔太郎は、目の色を変えて仕事に向き直った。
作業スピードが格段に上がった委員長に思わず生暖かい目を向けてしまう。
さっさと仕事を終わらせて、可愛い子猫ちゃんと戯れたいということだろう。
作業スピードと積み重なった山を鑑みて、あと一時間もしないで今日は切り上げるだろう。
図らずとも、委員長のモチベーションを上げてくれた眞白に感謝する。
絶対口には出さないが。
「僕、先に寮に戻っていますね」
「待て、一緒に行く」
「いらない。ダメ。朔太郎はお仕事頑張って」
冷たく切り捨てる声色だったが、委員長のフィルターのかかった耳には語尾にハートマークがつけられて聞こえていることだろう。
「終わったら、迎えに来て下さい」
はんなりとかすかに浮かんだ笑み。
気のせいかもしれないが、以前よりも表情が柔和になったと感じる。
苛烈で過激なのは変わらない。冷たく凍った横顔も変わらない。
けれど、ふとした瞬間に表情が柔らかくなるのだ。
眞白から苛烈さを取ってしまったらただのお姫様になるじゃないかと失礼なことを考える百々瀬だった。
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