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風紀室は第四校舎の四階にある。
食堂があるのは寮へ向かう途中。新講堂と併設されている。
どうにもこの学園の構造は複雑で面倒だ。
入学して一年目は時間内に授業のある教室へたどり着くことすら困難で、必ず一回は校内放送で迷子の呼びかけがある。
時折、高等部に進学しても迷子放送が流れたりもするのは笑い話だ。
腕時計にチラリと視線を投げれば、あと数分で最後の授業が終わるくらいだった。
帰りのホームルームはあってないようなものだ。
眞白の担任は良い意味で放任で、生徒の自主性に任せていると言えば聞こえは良いが、怠けていると言われればそれまでだ。
比較的足取り軽く歩いていた眞白は、風紀室を出てきたことをすぐに後悔した。
「眞白!!」
げぇ、と声を出さなかったのを褒めて欲しい。顔に出てしまっているのはご愛嬌だ。
地雷と呼ぶに相応しい騒音生物――春川姫司の登場である。後ろにはいつもの金魚の糞(生徒会ご一行)もいた。
「まだ授業中だぞ!! なんでこんなところにいるんだ!?」
「お、」
お前も授業中だろうが、という言葉はすんでのところで飲み込んだ。
この宇宙人とは会話が成り立たないのは理解済みだ。
言葉を発するだけ労力の無駄である。無視をしてさっさと行こう。
表情すら変えずに横をすり抜けようとした眞白の細い手首を、ガッシリと掴んで引き止める宇宙人は本当に害悪でしかない。
「なんで無視するんだ!? オレが聞いてるんだから、ちゃんと答えろよ! あっ、もしかしてリューヤたちの前だから恥ずかしいんだろ! 大丈夫だぜ、良い奴らだからキンチョーなんてしなくっても!!」
いちいち語尾にびっくりマークを付けなければ喋れない病気なのだろうか。
眞白のブチ切れ声を十とするなら、宇宙人の通常会話の声量は百である。耳障りでしかたない。
眉根を顰め、飛び出そうな罵声を一生懸命に飲み込む。
我満しているのは、一重に授業中であるからというだけだ。
生徒会役員に考慮してだとか、そんなの今更である。書記親衛隊が解散した時点で、生徒会に対する敬いも何もかも丸めてゴミ箱に捨ててしまった。
「……風紀室へ行っていたんで。それが何か問題でもある? 善良な一般生徒が相談をしに行っていただけのことだよ」
宇宙人に話してもムダだろうと唯一話が通じると思っている会計役員を見て言葉を紡ぐ。
「風紀室!? なんでそんなとこに行ってんだよ! 授業中じゃんか!!」
口を開こうとした会計を遮り、無理やり目線を合わせてくる(タワシ頭で目元なんて見えないに等しいが)宇宙人に嫌悪感が増す。
汗ばんだ手のひらが手首を握っているのも気に入らないし、距離を詰めて騒音を出す宇宙人自体も気に入らない。
生理的に無理、と書記親衛隊元隊長が言っていたことを今ならよく理解できる。確かに、生理的に無理だ。虫に対するのと同じ嫌悪感を感じる。
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