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20*元副隊長の休日の過ごし方
眞白の朝はモーニングコールから始まる。六時半、男子高校生にしては早起きだろう。
「……もしもし」
おはよ、うん、ん、頑張って、ぼくも頑張るから、ん、またね。
一分にも満たない。短く言葉を交わして、寝惚け眼をこすった。
朝日がカーテンに遮られた薄暗い室内。
物は少なく、シックな印象を受ける。
優秀な成績を収める生徒には一人部屋が与えられ、眞白は入学当初からそこで生活をしている。
簡易キッチンや浴室などが備え付けられ、安いビジネスホテルより居心地は良いだろう。運良く、最上階の角部屋なので隣や上階の音を気にしなくても良いのも、精神的安定を保てるひとつだ。
ただ、料理の腕はからっきしなのでキッチンが役目を果たすことは少ない。
せいぜい、飲み物を入れたりお湯を沸かしたりするくらいだ。
「……起き、なきゃ」
これと言って用事はないのだが、休日だからと怠惰に過ごすつもりはない。
休日の朝は植物園へ向かう途中にある休日限定で営業をするカフェで朝食を取る。その後は日用品で不足があれば学園外に買物に出かけたり、図書館で読書をしたりする。
洗顔は弱酸性の肌に優しいものを使う。
美容男子ほどではないが、皮膚が弱いために気を使っていた。
あわ立てネットでモコモコと白い泡で顔を包み込む。ごしごしと、がさつにこするのではなく、泡を動かすようにふわふわモコモコと動かすのだ。
洗顔が終わればシャコシャコとハミガキをして、ぼーっとしながら磨いていれば十分くらい経ってしまうこともあった。
クローゼットからパンツと七部丈のカットソーを引っ張り出して、もたもたと着替える。
適当に髪を整え、学生証と携帯だけ持って部屋を出た。八時前くらいだ。
鍵を閉めたのを確認してゆっくり歩き出す。
廊下に出れば、各部屋の物音がかすかに聞こえた。
お隣さんは起きているようだ。お隣はクラスメイトの学年主席。今日も学園外へ出かけるのだろう。
まだ朝も早く、しかも休日であるからだろう寮内は静かだ。
靴音を響かせながら、エントランスまで降りれば、寮監督の教師がテーブルで花を生けていた。
「おはよう、雪美君」
「おはようございます。先生。珍しいですね、花なんて生けて」
「私もそう思うよ。貰ってしまったから、仕方なく、ね」
苦笑いをした先生に首を傾げる。貰った相手を思い浮かべているのだろう。生徒に対するときとはどこか雰囲気が違う。
「そういう雪美君は、今日もカフェに?」
「はい。美味しいから、あそこ」
「なんだかんだで学園に勤めて長いけれど、いまだにカフェに行ったことないんだよね」
「えっ! それは損してます! 絶対食べるべき!」
特に、モーニングセットのホットサンドが格別に美味しい。
付け合せのサラダはシャッキリと新鮮で美味しいし、実家から送られてくるという季節の果物も美味だ。
アフタヌーンティーの時間限定で出しているケーキセットも一度は食べるべきだと眞白は思っている。一度食べれば病みつき間違いなしだ。
眞白のいつにない熱弁ぶりに目を瞬かせた先生は、つい溢れてしまっただろう笑いに口元を押さえた。
「ふふっ、ご、ごめんね。なんだか、こんな雪美君、初めて見たから」
「……僕だって、好きなものくらいありますよ」
「たとえば?」
「……。カフェのモーニングセットとか、朝の静かな時間とか、」
「千十代君とか?」
むすっと口を結んだ。
悪戯に笑みを浮かべた先生に揶揄いの色を見つけてプイッとそっぽを向く。
「僕、もう行きます」
「はい。行ってらっしゃい。外に彼が待っているよ」
羞恥に顔が赤くなった。これだと、僕が照れて拗ねたみたいじゃないか。きゅっと結ばれた口元に、目尻がつり上がる。
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