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 恋に溺れて、愛を覚えて、人の欲を嫌う眞白は清純そのものだ。  もっと欲望に塗れた人間らしくなればいい。目を細めて、眩しいものを見るように眞白を捉えた。 「そういやぁ、名前では呼んでくれるのに、いつまでたっても敬語なんだな。堅苦しい口調なんて、取っ払っちまっていいんだぜ?」 「一応先輩なので」 「意外と上下関係はしっかりしているよなァ。敬語を使えるのは今後の長所になるが、俺にそんなもの使わなくたっていいんだっての。俺と眞白の仲だろぉ?」 「朔太郎の頭の中で、僕と貴方は一帯どういう仲なの……」  こくり、と飲み下したアイスティーが喉を潤してくれる。  食を満たし、昂っていた気持ちも落ち着いてきた。  ファーストキスを奪われたことを思い出せば苛立ち、怒りが湧き出てくるけれど、わざわざ食事の時間を乱そうとも思わない。慣れたようにキスをしてくるのも気に入らなかった。ムカつく。蜂に刺されてしまえばいいのに。 「ごちそうさまでした」と手を合わせる。作ってくれた店員さんに「今日も美味しかったです」と声をかけた。  とっくに食べ終わっている朔太郎に無言で目を向ける。 「ん、あぁ、ごちそーさんでした。今日も美味かったですよ」 「こちらこそありがとう。また来てね」 「はい。もちろんです」  にっこりと、美味しいものを食べて心も満たされたのか、珍しいくらいに満面の笑顔を浮かべた。笑みを向けられた店員が羨ましい。つい、ジト目で見れば足を踏まれた。  肩をすくめてさっさとカフェを出て行ってしまった朔太郎に溜め息を吐いて追いかける。  なんだかんだ言いつつも、きっと明日も一緒に来るんだから、嫉妬なんてしなければいいのに。  恋も愛もいらないが、休日を共に過ごすくらいには許しているのに何を嫉妬しているんだろう。  勝手に好きになったのはそっちなのに。周りの生徒には「いつ付き合うんだ?」なんて言われる始末。それこそ、関係ないだろうと声を荒げたい。  好きではないが、嫌いでもない。嫌いだったら顔を突き合わせて朝食を取るなんてするものか。 「朔太郎」 「……なんだぁ?」 「僕は、朔太郎のことそれなりに好意的に思っているんだよ」  ピタリ、と足を止めた大きな彼は振り返ってぽかんと阿呆面を晒す。  なんだか面白くって、クスクスと喉を転がした。 「そうだなぁ。さっきのホットサンドより好きだよ」  面白おかしく言えば、再び肩を落とした朔太郎。 「好き」か「それ以外」の二つにしか分けられていない中で、「好意的」という比較的「好き」に近い位置にいることを朔太郎は知らない。  

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