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24*風紀委員長の朝の始まり

 我らが風紀委員長こと千十代朔太郎の一日はまだ日も昇っていない時間から始まる。  大学卒業後に家業を継ぐとはいえ、ある程度内容を理解しておかなければと思い、高等部に進学してからは簡単な庶務から始まり、大きな決済まで受け持つようになった。  風紀委員長の特権で、ある程度成績を維持していれば授業免除も許されるのはとてもありがたかった。 「……急ぎは、これか」  ベッドサイドにおかれたノートパソコンで、実家から送られてくるメールを確認する。業務連絡と、家の様子が綴られているメールは二日に一度届き、発信相手は弟だ。  四つ年上の双子の兄姉、二つ年下の弟、四つ年下の弟、六つ年下の弟、五歳になったばかりの双子の兄妹。  なかなかに大兄弟だが、実際にはみな腹違いだ。  今の世に珍しい一夫多妻。父には四人の妻がいる。正妻は双子の兄妹の母親だ。彼女がなかなか子を授かることができず、跡継ぎのことを考えて後妻を娶ったとかなんとか。  兄弟仲は良好だ。四人の妻たちも協力しあって、あの地獄のような屋敷で暮らしている。  現在、跡目争いで家の中は荒れに荒れている。正妻の子を跡継ぎにという一派もいれば、長男を跡継ぎにしろと言ったり、双子は忌み嫌われる存在だと嫌悪する老害がいたり。  兄弟の仲が良くても、周りはそうさせてくれない。可哀想なのは弟たちだ。四番目の妻の子。それだけで一番下に見られてしまう。  あの地獄を、害悪を綺麗さっぱり抹消したいと朔太郎は考えていた。  そのために母を含めた四人の妻たちに協力してもらい、家の中で比較的まともな人材を確保して、親父殿の首を寝掻くつもりでいたのだ。 「ハァ……あー……眞白に会いたい」  ぼぅっとして、欲望のままに声を出した。  花の妖精のように愛らしいひとつ年下の男の子。  小さな輪郭に、すっきりと整った目鼻立ち。墨を落とした黒髪、蒼玉をはめ込んだガラスの瞳。口紅要らずの小さい唇にまろい頬。  小生意気だけど、可愛くて可愛くて仕方ない。それが恋なのか、愛玩する気持ちなのか実際には区別がついていなかった。  ふとした瞬間に、眞白の白い花の横顔を思い出して会いたいと思うのだから、これは恋であると朔太郎は決め付けた。  今日は一日風紀室で書類を捌くことに専念しよう。  ハゲ教師についてもこれまでの愚行をまとめなければいけない。体育祭についても、実行委員会議が来週に差し迫っているし、警備について考えなければいけない。やることは盛りだくさんだ。  何よりも、宇宙人の存在が気がかりである。気に留めることすらもったいない、と透は言うが、気に留めずにいては被害は広がるばかりだ。  編入してきてからの生活態度を見直してみれば、十分謹慎処分にできる。少し無理を通せば退学にもできるのだが、そうも簡単にいかなかった。  中途半端な時期の編入という時点できな臭いのを、調べてみれば出てくるのは問題行動ばかり。  編入する前に在籍していた高校では、クラスメイトへの暴言・暴力行為のほかに学校を上げて支援をしていたスポーツ特待生の足を骨折させる事故まで起こしているのだ。  好き勝手に我が儘放題な態度の春川姫司がなぜ、進学校のこの学園に編入できたのかと言えば金とコネである。  公にしてはいないが、学園長の実の姉の息子、つまり学園長の甥にあたるのだとか。  我が儘な実姉と甥っ子には学園長も困り果てているが、現状は退学にすることはできないらしい。

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