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体育祭が終わったあとにでも、寮部屋を一緒にしようと考えている。
きっと、眞白は拒否しない。家事は苦手、とぽつり零していた眞白は、朔太郎が料理も出来ると知れば驚くこと間違いない。
「そういやぁ、体育祭は何に出るんだ?」
「僕は出ない」
きっぱりと言い切る眞白だが、体育祭当日に予定でも入っているのかと聞けばそんなことじゃない。
予定が入る予定、だそうだ。そういえば、運動音痴だったなァと苦笑いする。
体育祭は七月の第二火曜日。あと一ヶ月もない。
「イヤ……熱でも出さねぇかぎり欠席は無理だろうなぁ。最低ひとつは出なきゃならないだろ」
「貴方は何に出るの」
「俺かァ? ほぼほぼ全部だそうだ。こういうときに身体能力発揮してクラスに貢献しろだとよ」
遠い目をした朔太郎に、眞白はドン引いた目を向ける。
全部って、七種目あるじゃないか……。僕だったら絶対に意地でも熱を出すだろう。
嫌過ぎて吐くかもしれない。
「んで? 眞白は?」
「……障害物競走」
心底嫌そうに眉間にシワを寄せて呟いた。
障害物競走、と繰り返した朔太郎をジロリと睨む。ただの障害物競走ならまだいいさ。走るのも力を使うのも得意じゃないから、まだ運任せなところがある障害物競走に渋りつつも頷いたというのに、後出しで「女装」障害物競走であると聞いたのだ。
毎年どこかの競技に「女装」を盛り込んでくるのは知っていたが、まさか自分が女装することになるとは思っていなかったのだ。
「そりゃ、また……色物だなァ」
「ほんとうにね! 誰がむさくるしい女装姿なんて見たいもんか」
眞白の女装なら見たい、という言葉は寸でで飲み込んだ。
口に出してしまえば怒るのは目に見えているし、わざわざ怒らせたいわけじゃない。
共に過ごす時間が長くなってくると、何が眞白の琴線に触れるか分かるようになってきた。とりあえず、眞白が本気で嫌がらなければある程度は許容してくれる。
第一に、嫌がることをしない。けれどこれにキスや手を繋ぐことは含まれないのだ。
第二に、眞白の言葉を否定しない。
第三に、お願いを聞く。
この三つさえある程度実践していれば眞白が機嫌を損ねることはない。
「……僕の女装姿見たいなぁ、とか思ったでしょ」
「……いやァ? 思ってねぇよ」
「嘘。貴方、嘘吐くとき、左の目の端が小さく痙攣するの、気付いていないでしょ」
してやったり、とシニカルに笑った眞白に瞠目する。
「僕も意外と見てるんだよ」と得意げにはにかんだ花顔に心臓が大きく脈打つ。ポーカーフェイスは得意な方だというのに、にやける口元を我慢できない。
キスも、手を繋ぐのも、抱きしめるのも許されているけれど、それは興味がないからだと思っていた。
なのに、こんなご褒美のみたいなことを言われて、我満できるはずなかった。関心を示してくれている。興味を持ってくれているのだ。日常をただ流しているだけの眞白の中で、自分は興味をも持たれている!
これほど嬉しいことはない。
「変な顔してる」
「いや――さすが眞白だと思って」
「なぁに、それ。僕は僕だよ」
「ははっ、改めて惚れ直した」
笑みを崩して、「好きにすれば」と呟いた眞白の手を握りなおした。
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