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27*元副隊長と双子と春川姫司

 書記親衛隊元副隊長・雪美眞白は、珍しくひとりで食堂に来ていた。  もっぱら、ひとりであることは珍しくないのだが、ここ一ヶ月は風紀委員長が隣にいたものだから、生徒たちは珍しがってこっそりと伺い見る。  視線を向けられることに慣れてしまっている眞白は特段気にすることなく、オムライスを食すことに精を出した。  今週に入って、四日連続で昼食はオムライスセットである。  朝はサンドウィッチで、夜はデミグラスハンバーグ定食。  気に入ればずっと食べてしまう性質の眞白は、あと二週間は同じ食事メニューが続くことだろう。 「雪美センパイ。こんにちは」 「オムライス、美味しいですか?」 「こんにちは。美味しいよ、オムライス」  大きな丸テーブルにひとり、ぽつんと座って食事をしていた眞白の両脇に中等部の制服を着た生徒が座る。  あえて、眞白と同じテーブルに座らなかった周囲の生徒たちはギョッと目を剥いて羨ましげに視線を送った。 「雪美センパイがそういうなら間違いないですね!」 「雪美センパイが食べていたから、ぼくたちもオムライスにしたんですよ」  目の前のオムライスにだけ目を向けていた眞白はそこでようやく、思ったより近く、すぐ左右に中等部生が座っていることに気がついた。  親衛隊内でしか他学年の生徒と関わったことがない眞白にしてみればとても珍しい光景だった。 「……双子?」  パッと目を瞬かせる。  同じ顔が、左右で微笑んでいた。 「はじめまして。ぼくはトモナリ」 「弟のヨルフミです」  子狐のような愛らしさのある双子の笑顔にどこかデジャビュを感じた。  どこかで見たことのある顔だけど、どこで見たのか思い出せない。もどかしさに眉を寄せて首を傾げた。 「それで、僕に一体何の用だっていうの? 見て分かるとおり、食事中なんでけど」 「大した用事じゃないんです!」 「ぼくたち、雪美センパイの親衛隊を作りたいなって思って!」  広い食堂内に双子の声はよく響き、眞白たちを中心にシンと静まりかえった。 「僕の親衛隊?」 「はい! ぼくが隊長で、」 「ぼくが副隊長です」 「いや、どっちがどっちか分からないんだけど。トモナリが隊長?」  右側に座っていた双子のひとりが「名前呼ばれた!」と喜びの声を上げた。じゃあ、左側がヨルフミか。不満そうに頬を膨らませる片割れに、溜め息を吐いて「ヨルフミが副隊長?」と声をかける。 「ぼく、ヨルフミが隊長で、」 「トモナリのぼくは副隊長です」 「あ、そう」  ぱくり、とオムライスをすくって食べる。  うん、美味しい。冷めないうちに食べなさい、と促せば双子らしく声を揃えて「いただきます」と挨拶をした。  ランチセットのオムライスはワンプレートで五百円だ。ドリンクはつかないがスープとサラダがセットになってくる。  値段がいくらだろうと、学年次席の成績を保つ眞白は学園内での食費は学園負担となるので関係ないのだが、食堂のメニューでは特にオムライスが気に入っていた。  スープはさっぱりと塩気の聞いた鶏がらスープ。  サラダはササミとレタスを和えたレモンドレッシングがかかっていて口直しにちょうど良いのだ。 「美味しい~!」 「オムライスってこんな美味しかったっけ?」 「さぁ、うちの人たち皆飯マズだから仕方ないよ」  眞白を挟んで会話をする双子。  食事ベースがとてもゆっくりな眞白が一口食べ進める間に、食べ盛りな双子は三分の一を食していた。先に食べていたはずなのに、すでに追いつかれそうな勢いだ。

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