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031*学年次席と学年首席*
「ゆきみゃん、災難だったね。手のひらからガラスに突っ込んだって聞いたけど、大丈夫?」
「お風呂も、湯船に浸からなければ入っていいって。ねぇ、僕、君に物申したいことがたくさんあるのだけど」
「その節はご迷惑をおかけして……ほっぺはもう平気? うちの馬鹿が殴ったって」
「今回の件も合わせて、次顔を合わせる機会があったらぼろくそにしてやるから平気」
寮の一室、眞白はクラスメイトの部屋を訪れていた。両手には包帯が厳重に巻かれており、表情は辟易としている。
ゆるーい笑顔がトレードマーク。ミルクティー色のふわふわの髪に、着崩した制服。
学園内でもチャラ男と名高い生徒会会計の化野夕 は、数少ない友人に認めているひとりだ。
教室内で会えばそれなりに会話はするが、それ以外では素知らぬふりをしているのは、お互いで決めたこと。
高嶺の花たる雪美眞白と、慕ってくれる子はみーんな大好きな化野夕が仲良しこよしだと生徒に知られれば大騒ぎ間違いなしだからだ。
成績順でクラス分けされるこの学園で、夕は入学してから学年主席を譲ったことがなく、また眞白も変わることなく次席にい続けるので五年間クラスが同じで、寮も同じ棟の隣部屋。
自然と仲良くなったというのが正しい。
「弟たちから聞いたよ。大変だったね、お疲れ様、ゆきみゃん」
「……弟たちが誰か知らないけど、本当に大変だった。もっと労わってちょうだい」
「知らないって、一緒にご飯食べたんでしょー? トモとヨルと」
ソファに深く腰掛け、疲労から閉じかけた目を開いた。トモと、ヨル?
「トモナリとヨルフミのこと?」
「わぁ、ゆきみゃんにしては珍しいじゃん。名前呼びって。あいつらゆきみゃんの大ファンだから大喜びだったんじゃない?」
「宇宙人に邪魔されたけどね! って、弟だったんだ。いたことすら知らなかった」
びっくりしたでしょー、と笑う顔は、確かに双子と同じだった。目尻に笑い皺が出来て、クッと口角が上がる。既視感はこれだった。
「ねぇ、疲れた」
「うん。知ってる」
いい子いい子、と頭を撫でてくる友人に素直に甘える。
「風紀委員長さんの前でもこんななの?」
「こんなって、どんな?」
「だらーっと、棘を抜いた姿」
「……そんなの知らないよ」
「でも付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってないから」
はぁ、と溜め息交じりに答えれば、きょとんとする夕。ついで、「えー!?」と大絶叫だ。
夕のように真正面から聞かれれば「付き合っていない」と答えるが、聞かれてもいないことに対して何を答えろというのか。
朔太郎と眞白の関係については、噂が尾ひれをつけて一人歩きしている状態だ。
噂をいちいち訂正するのも面倒臭いし、勘違いするなら勝手にしてろと思う。
「あっんなに溺愛されてるのに!? マジでゆきみゃん!?」
「マジで。ちょーマジ。だって、僕、常々言っているじゃないか。愛とは何だ、恋とはどれだ、って。それに。恋に踊らされてる会長たちを見てどう思う? 馬鹿じゃない?」
「それは比較対象が悪い。会長たちはねー……うーん、見たことない新生物がいたら心躍っちゃうでしょ? 今そんな感じなの」
「あっそ、興味ないね」
冷たく切り捨てる眞白だが、夕もたいがい興味を失っている。
仕事をするカッコいい生徒会長と副会長だったから、勧誘されたのもあって生徒会役員になったが、今の現状が続くのであればさっさとリコールしてお役御免となりたいとすら考えている。
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