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生徒会長と副会長がいないだけで仕事はどんどん溜まっていく。
生徒会室へ仕事をしに行けば春川が我が物顔でやってくるし、最近は空き教室を借りて仕事をしているのだ。
今回の暴力沙汰もあり、春川は二週間の謹慎処分となった。
被害者の眞白に教えれば、「興味ない」の一言で切り捨てられる。
可哀想に、春川は今後一切眞白から興味を持たれることはないだろう。赤の他人にすらなれない、それ以下の存在になってしまったのだ。
「夕は知っているでしょう。僕が、恋とか、愛とかに興味ないって」
「知ってるけどー、でもそれってお家事情なだけであって、ゆきみゃんには関係ないじゃん。一緒くたに考えたらいけないと思うんだよなぁ」
グッと、眉間に深いシワが刻まれる。
雪美家は複雑な家庭環境に置かれている。家族の仲も冷めきり、帰っても居場所なんて無いに等しい。
父は完璧主義の完璧人間。曲がったことが嫌いで、大病院に勤める医者だ。行く行くは院長になるらしい。
兄は、そんな父を生き写したかのようにそっくりな完璧人間。几帳面で潔癖症。
弟は天才肌の麒麟児。三兄弟のはずなのに、眞白だけが疎外され、学園に押し退けられた。
将来は家のためにどこぞのご令嬢と婚約や結婚をさせられるのだろう。すでに顔も名前も知らない許婚がいるらしい。
眞白の母は、ヒステリックな女性だった。数年前に他界してしまったが、自分で言うのもなんだがとても苛烈で過激な女性 だった。それでいて、艶やかな黒髪のとても美しい女性だった。
記憶に残る母は、常に眉間にシワを寄せている。どうしても、笑顔が思い出せない。眞白には優しく、頭を撫でてくれたのに。
「――時々思うんだ。母さんは、あの人と結婚するべきじゃなかったって」
「……どうして?」
「自分のことしか考えないあの人に、人一倍寂しがりやで愛されたがりだった母を愛せるわけがなかったんだよ」
「それは、でも、お父さんとお母さんが結婚しなければゆきみゃんは今ここにはいないじゃないか」
「僕なんて、生まれなければよかった」
ゆっくりと目を閉じた眞白の脳裏に映るのは、大きなベッドに横になり、白い顔をさらに白くさせた母の姿。
母の家柄だけで結婚をして、子供が出来ればあとはかまいもしない、情のない父。アレを父親だなんて思いたくもない。半分でも、アレの血が流れていると思うだけで怖気が走る。
年月を重ねるごとに、記憶の母が薄らいでいく。それが嫌で、母に似ていると言われた部分があれば、ことさらに似せるように努力をした。
艶やかな黒髪。日に焼けたことのない白い肌。年頃になって、声変わりした低い声が嫌いだった。女の子だったなら、もっと母に似ていただろうに。
短く、息を吐き出した眞白の壮絶な色香に、夕には違う人物が映って見えた。
苛烈で過激で、人を寄せ付けない友人が、人一倍愛情に飢えているのを知っている。
恋なんて、愛なんてくだらないといいながら、愛に飢えているのだ。愛されたいと、ぬくもりに溺れたいと。触れられるのを嫌うのは、温度が移ってしまえば離れがたくなるから。生まれなければよかった、と悲しいことを言うのは、愛に溺れてしまう自分を見たくないから。
可哀想だなぁ、と。それが可愛いとすら思う。
早く風紀委員長はこの友人を捕まえてほしい。一人ぼっちで、寂しそうに寒そうにしている眞白を暖めてあげてほしい。
「ねぇ、ゆきみゃん。ゆきみゃんは、卒業したらどうするの?」
ぽつりと呟いた夕に、ゆっくりと瞬きをした眞白は首を傾げた。
「どうするって、どういうこと?」
「大学に進むとか、就職するとか、あるじゃん」
「……さぁ? あの人は僕にどうこうしろとはいっさい言わないから、卒業したらすぐにでも結婚させられるんじゃないかな」
自分自身のことだというのに、あまりにも他人事の言いように言葉を失った。
ここまで、自分のことに興味がないと思わなかった。
「自分のことなのに興味なさすぎでしょ」
「自分のことだけど、自分で決められないんだったら所詮他人事だよ」
「あ、そりゃそーだわ。でもさぁ、あれやりたいとか、これやりたいとか、ないの?」
「……別に、ないかなぁ」
今が楽しければそれでいいよ、と淡く笑った眞白に、なんだか胸が苦しくなって小さな頭を抱きしめた。
クスクスと喉を鳴らして笑う眞白に、面白くって夕も笑いがこみ上げてくる。
まだ学生だもの。先のことなんて考えなくたっていいじゃないか。夕は考えすぎるきらいがある。眞白は、気難しく考えているようで目先のことしか考えていない。
だからこそ、友人関係を続けられているのかもしれないが、今が心地よければそれで良いだろう。
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