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このまま食堂に行く? と囁く夕に、少しだけ逡巡した眞白は首を振った。
昨日の今日で、宇宙人に会いたくない。
「だから、謹慎処分だから食堂にも来れないよ。それにもう八時過ぎてるし、他の生徒もいないんじゃないかなぁ」
食堂の営業時間は朝の七時から夜の九時だ。明日も授業があるし、善良な一般生徒であればすでに寮部屋で体を休めているだろう。
まぁ、いいか、と深く考えずに頷いた眞白にパッと表情を明るくする。一緒に夕食だなんて、何年ぶりだろう。中等部の頃はよく昼食とかを共にしていたが、高等部に進学してからは周りが煩くて一緒に行動ができなかった。
夕が生徒会に入って、眞白が親衛隊に入ってしまったのもある。
「遅い夕食を取ってる生徒はラッキーだね。俺とゆきみゃんのセットが見れるんだから」
「ラッキーなの?」
「ラッキーなんだよ」
ニコニコと笑顔の夕に、嬉しそうだからいいか、と息を吐き出した。
夕といると、心が落ち着く。
煩くないし、ふわふわと掴みどころのない性格が面白い。ちゃらんぽらんのように見えて、どこか達観しているのだ。
チャラ男だなんて言われてるけど、他の生徒よりよっぽどしっかりしている。
並んで廊下を歩きながら、何を食べようか、と他愛ない会話をした。
「まーしろ」
低い声音に、足を止めた。
「朔太郎? 今日の仕事は終わったの?」
「あぁ。ハエが大人しくしてるからなぁ。その間は仕事も増えないから処理するだけだ」
うわぁ、という夕の声に横を見るが、すぐに朔太郎に呼びかけられて視線を戻した。
「珍しい奴と一緒にいるじゃぁねぇの。仲、いいのか?」
「仲いいの? 僕たち」
「さぁ? 風紀委員長さんがそういうなら、仲いいんじゃないかなぁ?」
顔を見合わせる異色なふたりに、目を丸くした朔太郎は、次いで溜め息を吐きだした。
「俺が馬鹿みてぇじゃねぇの」と小さく零し、眞白の華奢な手を掴んだ。
「なぁに? 朔太郎もご飯行く?」
「これから夕飯か」
「良かったら風紀委員長さんも一緒に行きましょーよ。貴方が一緒なら騒がれなくっていいかも」
人を虫除けにするな、と疲れた溜め息が一緒に零れた。
くたびれた様子の朔太郎に、目を瞬かせる。やっと一息吐いた様子だ。
「で、どういう関係だよ」
ジロリ、と睨んでいるに等しい視線で夕を見る朔太郎。疲労でイライラしているのだろうか。
「やだなぁ、そぉんな疚しい関係じゃないですよー。中等部から、ずーっと一緒のクラスなんです」
「五年間か?」
にわかに驚いた様子の朔太郎に、夕は自慢げに笑みを浮かべる。
それほど、上位成績になるとクラス分けも熾烈になるのだ。一年ごとにAクラスとBクラスで入れ替わりが激しく、五年間同じクラスで成績を維持するというのはとても難しい。
成績やクラスにさして重きを置いていない朔太郎でも、それは難しいことだと理解している。今年の初めに透が「やっと念願のAクラスですよ」と言っていたのをよく覚えている。
眞白のことは一から十まで調べて知っていたが、まさかちゃらんぽらんだと思っていた生徒会会計もだとは思いもしなかった。
「ふふっ、びっくりだよね。夕ってば、こんなふうに見えて入学してからずぅっと学年主席なんだよ。すごいよねぇ」
「……友達いたんだな」
「友達?」
「会計と、眞白だよ」
「わぁ、友達だってよゆきみゃん! 俺たち友達だったんだね!」
不思議に首を傾げる眞白と、ぴょんぴょん喜び飛び跳ねる夕は、傍から見て友達に見えるのだが、本人たちはそう認識していたなかったらしい。
かすかに、頬を緩めた眞白は飛び跳ねる夕を視界に納めて柔らかく笑んだ。
それが気に入らなくって、ぎゅっと手を握ればチラリと横目に視線を向けられる。
蒼い美しい瞳に映るのが自分だけであればいいのに、と。
もどかしい二人の様子を、夕が見ているのも楽しそうに盗み見ているのも知らずに、朔太郎は子供染みた嫉妬に溜め息を吐き出した。
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