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   雲ひとつかかることなく、プログラムは順調に進行していく。  色分けというより、クラス対抗という意識が強いこの体育祭では、勉強で勝てないなら、とAクラスやBクラスが目の敵にされることがもっぱらだ。勉強では勝てなくとも、運動でなら勝てる! と自信満々な生徒はCクラスやDクラスに多かった。  午前中最後のプログラムであるむかで競争を終えた二年Aクラス――眞白たちは息も絶え絶えにテント内で涼を取っていた。 「ゆ、雪美君、飲み物いる?」 「あー……うん、貰おうかな」 「齋藤、これの世話は私がするから、自分の体を休めろ」 「これって、何。僕は物じゃないんだけど」 「ゾンビみたいになってる奴がなにを言っているんだか」  文武両道の百々瀬にとって団体競技でへばるなんてこともなく、汗ひとつかかずに飄々としている。クーラーボックスから冷えたスポーツドリンクを取り出し、蓋を開けて眞白に渡す。至れり尽くせりと思われそうだが、敬愛する風紀委員長からの指示なので致し方なくやっているのだ。蓋を開けたのも、新品かどうか確認をするため。  パキ、と音を鳴らして開いたペットボトルは間違いなく新品だろう。眞白も、それを分かっていて何も言わないのだ。イベントを機会に交流を持とうとしてくるクラスメイトには悪いが、見知った百々瀬のほうが気を使わなくて楽だから良い。  競技の結果としては、高等部二学年はCクラスがぶっちぎりで首位を走っている。次いでD、Bクラスと続いて、驚くことにAクラスが四位。Eクラスは不参加の生徒がほとんどで、実質Aクラスがびりっけつには変わりない。  学年一位のクラスには一年間学食無料サービス券が渡され、MVPに選ばれた生徒にはなんと学園に対して何でもお願いをひとつだけかなえて貰うことができる。確か、去年のMVP生徒は親愛する誰々と一日デートがしたいです、みたいなお願いをしていた気がする。お願いされたほうの生徒はたまったもんじゃないだろうに。  ごくん、と飲み物を嚥下して、汗で張り付く髪を耳にかける。汗ばみ、赤らんだ肌に顔を赤くする生徒が多数。同じクラスとは言っても、男の子。エロい塊に耐性はない。  溜め息を吐いた百々瀬は、ハンドタオルを眞白の頭に分投げた。好き勝手に色香を撒き散らすんじゃない。介護するほうが大変だ。 「ちょっと、何するの」 「お前が悪い」 「はぁ? 意味わかんない」 「……はぁ、どうして私が」 「嫌ならさっさと朔太郎のとこ行けばいいでしょ」  それができればどれだけ楽か。溜め息を吐く百々瀬にべーっと舌を出す。 首元に冷えたペットボトルを当てると熱が冷めて気持ちが良い。体操着の首元を掴んでパタパタと扇いだ。クラスメイトはテントを仰いだ。  放送で「一時間の昼休憩です」とアナウンスが聞こえてくる。全生徒がわらわらと動き出したのを、虫のようだなぁと思いながら眺めた。  順番に案内をすれば混雑しなくて済むのだが、それをしないのにもきちんと理由がある。  下の学年から順番に案内をすれば、上の学年が「年功序列でしょ」と騒ぎ、上の学年から案内すれば下の学年の生徒で熱中症になる生徒が出始める。それなら、とAクラスから順番に案内すれば、Eクラスから「こういうときもAクラス贔屓かよ!」と批判が出て、Eクラスから案内をすれば今度はAクラスから「僕たちが最後なわけ!?」と批判が続出する。  家柄が良く、ムダにプライド高い生徒が集まっているために面倒くさい事件がわりとよく発生するのだ。学園で第一に家柄、第二に容姿、第三に成績が見られるポイントである。家柄が良くって、顔も整っており、成績も優秀ならスムーズな学校生活を送れるだろう。  第一の家柄もまぁ良し、第二も問いかける前にクリア、第三も問題なく学年次席、オールパーフェクトな雪美眞白がどうして苦労をしなければいけないのか、と首を傾げた。順風漫歩、在学中はそれなりに平和な毎日が送れるはずだったのに。 「雪美は昼はどうするんだ?」 「適当に、食堂行くつもり」 「あの人だかりの中を?」  ほとんどの生徒が集中しているだろう食堂内はきっと座る場所を確保するのも困難だ。去年は書記親衛隊として借りているサロンで、親衛隊みんな揃って昼食を取ったが、今年はそうも行かないだろう。  言葉を飲み込んだ眞白に、少し考えた百々瀬はどこかへ電話をかけ始めた。丁寧な口調から、相手は朔太郎か。 「……残念ながら、私は昼休み中巡回に回らなければならない。が、幸運なことに委員長がお手すきだ」 「……朔太郎のとこに行けって?」 「端的に言えばな。委員長は旧講堂だそうだ」 「お昼はどうするの?」 「デリバリーを注文済み」  旧講堂へ向かうことが決定した。

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