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「おや、随分と白けた忘年会だね」
す、と通る冷たい声音。入り口から聞こえた声に、記憶よりも少しだけ低くなった声に、同輩たちは振り向いた。
モデルのようにすらりと細く長い手足。袖口から覗く華奢な手首。伸ばしているのか、きちんと手入れのされた絹糸を思わせるぬばたまの髪は後頭部で結び、片方だけ耳にかけている。蒼い瞳は色素が薄れ、はんなりと弓形に笑みを描いている。透ける真っ白い肌に、赤い唇は柘榴のようで色香を纏っていた。
一級品のコートを羽織った雪美眞白が、そこにいた。
側を通った同輩たちの視線を奪いながら、夕のところへゆったりと歩いて向かう。
「久しぶりだね、夕。と、その他大勢」
「……ッゆきみゃん~!! うっわ、うわ、うわぁ! 久しぶり! なんか、また一段と美人になった!?」
「煩い、夕。……久しぶり、卒業以来だから十年ぶり?」
「ほんとだよ! 卒業式には出ないし、次の日には携帯も繋がんなくなってさぁ! 俺がどんだけ心配したかわかってんの!?」
「それは謝るよ、ごめんね、夕」
眉を下げ、小さく唇を尖らせて謝る眞白は、二十八歳とは思えない可愛さに溢れていた。
「それにしても、もう同窓会も後半だよ。随分遅い到着じゃん」
「子供たちがなかなか寝てくれなくてね」
ふんわりと、幸せに満ち溢れた笑みに、耳を大きくして聞いていた彼らは顔を赤くする。
すぐにざわめきは広まって、「子供!?」「たち!?」「雪美君が結婚」「誰と結婚?」「誰が結婚!?」と大きくなる喧騒に眉を寄せる。
左手の薬指でキラリと輝くリングが、さらに声を大きくさせた。
「うるさいなぁ」
まさに鶴の一声。大人数の飲み会で「うるさい」と機嫌を損ねるのもアレだが、統率のとれた元Aクラスメイトたちはすぐに口を閉ざして静寂を保った。
「うん、いい子たちだね」
花丸だよ、と。くしゃり、と。笑みを零した眞白に天を仰ぐ元クラスメイトたち。相変わらずだなぁ、懐かしいなぁこの光景。思わず遠い目になる夕。
角が取れて丸くなったと思ったが、女王様は健在のご様子だ。
「……雪美、久しぶり、だな」
久栗坂が、意を決した様子で眞白に声をかけた。語尾が少し震えてしまったが、気づかない程度だ。
元書記様親衛隊隊長がいたら、「どの面下げて声かけてきてんですかコノヤロウ」と言うに違いない。
「……――だぁれ?」
ふんわりと、微笑を浮かべて眉根を下げる。困り、頬を指先でかく眞白の脳内から”憧れ慕っていた書記様”の記憶は抹消されていた。
ガーン、とショックを受けて固まってしまった久栗坂だが、夕や透にしてみればざまぁみろ、である。
「ゆきみゃん、料理取りに行こう」と立食形式なのを利用して、眞白を連れて久栗坂から引き離す夕。振り返って、舌を突き出すのを忘れない。
最高学年で生徒会長に選ばれた男だろうが関係ない。大好きで可愛くて綺麗な友人を泣かせた罪は重い。
コートを給仕に預けた眞白は、青みの強いネイビーの細身のスーツだ。男物にしては珍しい、くびれのあるジャケットはシルエットが美しく、スラックスも細めに作られていて、眞白によく似合っている。しかしながら、どこかで見たことのあるスーツだ。
「……その、スーツってさぁ」
「あ、気がついた? トモナリとヨルフミがプレゼントしてくれたんだ。どうぞご贔屓に、ってね」
にこにこ笑う眞白が可愛い。……じゃなくって、お、弟~~~!!
怒りの声が漏れそうになる。溜め息を吐けば、少しだけ気持ちも治まった。
「……アイツらはゆきみゃんの連絡先を知ってたってわけね」
「いいや、僕じゃなくて、朔太郎の連絡先だよ。僕、今携帯持ってないから」
電話番号とか、SNSとか面倒くさくって、と言った眞白を凝視する。現代人じゃないのか。スマホ依存症にも近い夕には考えられなかった。
なによりも、続いてたんだ、っていう驚きと、子供は? という疑問。
「ねぇ、ゆきみゃん。聞きたいことはたくさんあるんだけど――今は幸せ?」
「……うん、しあわせだよ」
花開いた笑みに、夕も目を細めて笑みを深めた。
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