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 他愛もない話題に花を咲かせながら寮への帰路を辿る。 「風紀も大変ですねぇ」 「なんで強姦なんかするのかねぃ……合意の方が気持ちいいに決まってんじゃん。白ちゃんもそう思うよね」 「あ、あはは」  ねー、と言われても苦笑しか返せない。  生徒による強姦、あるいは強姦未遂は学園内で一番深刻化してきている問題である。  幼稚舎から大学部まであるエスカレーター式の全寮制男子校。  都内の人里離れた山奥にある閉鎖的な学園は、通う生徒たちが退屈しないように娯楽施設も充実している。食堂は高級レストラン並み、生徒寮は三ツ星ホテルさながらの設備。  偏差値も高く、指折りの進学校に数えられている。学園に籍を置いているだけでステータスになった。  ――男しかいない、物心つく頃から閉鎖的空間で生活をしてきて、性欲を我満できるわけがない。身近なところで発散させようと生徒の五割がホモ、三割がバイ、二割ノンケという恐ろしい現状になってしまっている。  親からしてみれば年頃になり、どこぞの女と関わりを持たせる前に閉じ込めてしまえという魂胆なのだろうが、深く考えればどうなるかなんて見越せただろうに。  行為をするにあたって合意ならばいい。しかし、たまになんてことはなく、頻繁に学園内では発生しているのだ。強姦が。 「白ちゃんも気をつけるんだよ?」 「ん?」 「どっちのランキングも五位でしょーが」 「あー……まぁ、だいじょーぶでしょ。てか、なんで僕抱きたい抱かれたいにランクインしてんのさ」  そしてそれを焚きつけるかのように存在する学園人気ランキング。生徒会役員選挙の裏側にある隠されたランキングだ。  娯楽の一つと称し、年に二度、新聞部によって総計が出される『抱きたい抱かれたいランキング』。  実際にそんなものがあると知ったときは呆れてしまった。同じく外部から入学したクラスメイトの友人は「理想の王道学園だ!」とか言っていたが正直意味がわからない。  不本意ながら、紅葉はどちらのランキングも十位以内に入っている。自分の容姿はよく理解しているが、まさか五位以内に入るとは思わなかった。  しかしながら抱く抱かれる以前に、ノンケだと主張したい。声を大きくして主張したい。 「んー……大丈夫だと思いますけどねぇ。生徒会役員を襲う馬鹿はいないっしょー」 「白ちゃん、自分の容姿ちゃんとわかってる?」 「わかってますけど。だから解せないんですよぉー。百八十センチ近い男誰も襲いませんって。つーか、なんで僕が襲われる前提なんですかー」 「だって白ちゃん、身長あるけど細いし色白いし? タッパあるように見えて意外と華奢だし。もし襲うような輩がいたら俺が絞めとくからネ。白ちゃん喧嘩とかできないでしょ、守りがいありそう」  語尾に星でもつきそうなテンションの神原に苦笑した。守りがいってなんだ守りがいって。  確かに喧嘩はからっきしだし、万が一、襲われるなんてことがあったらお言葉に甘えて是非守ってもらおう。頼りにしてます、なんて笑いながら言えば頭を撫でられた。  ――とは言っても、紅葉の親衛隊は小柄で可愛い雰囲気の少年たちばかり。たまにゴツイ生徒もいるが、親衛隊隊長がしっかりと隊をまとめ、数ある親衛隊の中でも穏健派の代表とされている。 『親衛隊』とは、ランキング上位生徒のほとんどに設立されているある意味アイドルのファンクラブみたいな団体だ。  憧れの、大好きな彼を眺めたい、お近づきになりたい、彼のことをもっと知りたい! その裏で親衛対象の生徒が襲われたりしないように、学園生活を平和に過ごせるようにをモットーに活動している親衛隊だが、その規律は各々で少しずつ違ってくる。 「そういえばなんだけど、新歓の案ってできてる? まだこっちに来てないんだけどさ」 「え」  新学期が始まって二週間。さらに二週間後、四月の末には新入生歓迎会が行われる。  企画原案は庶務の一年生の仕事のはずではなかっただろうか。  まさか、と顔色を青ざめた紅葉はバッグの中に詰め込まれた大量の書類から新歓の企画書を探し出す。  さして時間もかからずに見つかった企画書に目を輝かせるが、何も書かれていない真っ白な状態のそれに絶句した。  

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