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開始合図と共に飛び出していったウサギと、その十分後にウサギを捕まえるべく出発していったオオカミを見送った運営生徒はガランとした講堂内に一息吐いた。
ゲーム時間内の見回りをする風紀委員会と体育委員会は見回り組と待機組に分かれて活動を開始している。
生徒会唯一の一年生・新田はゲームに参加すべくすでにこの場を去り、風紀と体育の待機組、生徒会の三人と一澄だけが残っている状態だ。
「終了時間の一時間前には戻ってくればいいんですね」
「そうしてくれると助かるなぁ」
「わかりました」
少し大きめなジャージの裾をいじっていた紅葉に、資料を見ながら確認した宮代は自己完結してひとつ頷くとサッサと歩き出した。
少し早歩きだ。もしかしたら、日之を探しに行くのかもしれない。
「ゆ――……宮代」
苦い表情で言い直した神宮寺は、資料を持っていない方の手で宮代の腕を掴み引き止めた。
「どこに行くんだ」
険を含んだ眼差しに緊張が走る。
「どこって、太陽のところですよ。元気溌剌で活発な子ですから怪我でもしていないか心配ですし……なによりも大切な人は自分で捕まえたい、そうは思いませんか?」
「……どうだろうな」
「そうですか。あなたは……太陽のところへ行かないんですか?」
意味深な響きを持つ言葉をどう受け止めたのか、舌を鳴らした神宮寺は講堂を出て行ってしまう。
苛立ちの表情を隠そうとせず、どこかに冷静さを置いてきてしまった神宮寺の背中を、色のない瞳で宮代は見つめていた。
「まさに不穏」
「ですねぇ。会長も副会長も何考えているんだか」
誰にでも優しい宮代と、誰にでも優しくない神宮寺だからこそ、かみ合っていたとも言える歯車は遅れてやってきた編入生によって綻びが生じている。
生徒たちはその綻びに気づかないほど馬鹿じゃない。立ち上る違和感に気づいて、ひっそりと影で行動し始めている。
日之とはまた別の厄介事が絡んでいる、そんな気がしてならなかった。
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