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やり残してしまった仕事をするために生徒会室へと赴いていた。
授業にも出たいが、デスクに積み上げられた減らない書類を見てそういうわけにもいかず溜め息を吐く。
暇があったら少しでも溜まった仕事をしたい。猫の手も借りたいところだ。
イライラしながらも手を止めたりはしない。効率よく提出期限が近いものから処理していく。
新入生歓迎会が終わったことで当分はゆっくりできると思っていたのに。
授業に出席できていないのはもちろん、教室にすら行けていない。テスト範囲なんて知らないし、友人関係にも支障を来たしてしまう。
あれもこれも転入生のせいだ。日之への怒りに任せて労働力に拍車をかけて書類を一気に処理しようと頑張ろうと意気込んだ。
――集中力も切れかかった頃、室内にシンプルな電子音が響いた。
音の発信源である携帯を手にとって見れば、ディスプレイに表示された珍しい人物に驚き、すぐさま通話ボタンを押す。
「尋 さん!」
『おん、久しぶり』
「久しぶりー! 今年なってから忙しすぎて会えなかったしねぇ。誉 さんは元気?」
『元気元気。あいつちょー元気やで。力余りすぎて今も暴れ行っとるし』
「そっかぁ。相変わらずみたいで安心したぁ」
実家の繋がりで友人関係にある三年生・小鳥遊尋 は学園内じゃあそれなりに名の知れた不良生徒である。
『なぁ、大丈夫やの?』
「なにがあ?」
『体調。悪いらしいやん』
「あぁ、そのこと。うん、大丈夫だよぉ」
『ふぅん? ま、ええわ。つーか、その変な標準語やめぇや? どうせ電話なんやし口調戻しぃ』
「えー」
『えぇから』
「……急に戻せとかなんなん?」
『そっちのほうが俺は紅葉君らしくて好きなんよ。ガッコーもそれで行けばええやん』
「いーや。今まで標準語で来たんに、なんで今更戻さなあかんねん。目立つの嫌やもん」
『紅葉君のいけず』
生まれが関西の紅葉はもともと訛っている。
学校にいる間は標準語で通しているが、地元に帰ったり気が緩んでしまうとついと口を出てしまった。
徹底して口調を直しているわけでもなく、今は神原にしかバレてはいないが、そのうち他の生徒にもバレてしまうかもしれないなぁと思うあたり緊張感がない。
『紅葉君は今何してんの?』
「生徒会やってまぁす」
『生徒会っちゅーことは仕事?』
溜まった仕事、と答えれば低く唸るのが聞こえてきて笑ってしまった。
『……紅葉君』
「ははっ……と、すんません」
『声が震えとる』
「気のせい気のせい。ん、なんや部屋の外騒がしゅうなってきたんで、切りますよ」
『名残惜しいけどしゃぁないな。んじゃ、また』
近いうち、顔見に行くから、と言い逃げのように最後呟いて電話を切ったと同時に扉が勢いよく開き、あの五月蝿い声が響いた。
なんてグッドタイミング、いやバッドタイミングなんだろう。
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