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テーブルに置かれた淹れたての紅茶がいい香りを放つ。
「それで? なんて返事をしたんですか?」
向かいに座った宮代は優雅に足を組み、聞いてくる。
「……別に」
「まさか、あなたそこまで言われて返事してないんですか!?」
「だって、しなくていいって言われたし……」
ぶすくれた表情でちびちびと紅茶を飲んでいれば、呆れた口調で窘められた。
あまりにも風紀委員長が不憫で可哀想だ。
「う、うるさいなぁ! 分かってるよぉ……でもさぁ、受け入れられるわけないじゃん」
神原のことは好きだ。恋愛感情抜きにしても、とても好印象を抱いている。けれどそう簡単に受け入れるわけにはいかなかった。
「僕の家、神社だし」とぼそぼそ小さく呟けば痛ましい視線を向けられる。
宮代といるとついいらないことまで口を滑らせてしまう。
ここ最近は平穏が続いていた。親衛隊は荒れていたのが嘘のように穏やかで、進学校の名前に相応しい静けさの中の賑やかさが漂っている。
「まぁ、神に仕えるお仕事ですからね」
「僕んちだとさぁ、特に成人したら神に嫁ぐも同然って考え方だから」
「嫁ぐ? 男性なのに嫁ぐとは」
「あ、あー……神様はさ、性別とか関係ないわけ。上位に神様、下位に人間ってヒエラルキーが確立してて、男でも女でも嫁に行くって表現になんのよ」
「それって男としての立つ瀬がなくない?」
「受け役の宮代に言われたくなーい」
「誰も僕が受けだなんて言ってないですよ」
にっこり、と言われたピシリと体を固まらせた。
「えっ……え、え?」
まともな言葉も出ず、頭の上を疑問符と感嘆符が飛び交う。
見た目の繊細さや華奢な体格からは想像できないが、紅葉とは十センチほどの身長差があるくらいには宮代は高身長だ。神宮寺もがっしりした体躯に見合った身長をしているがそれでもほんの少しだけ宮代の方が背が高い。
「……お前ら何してんだ?」
時計の針の音だけだった生徒会室に入ってきた神宮寺は上着を脱いでシャツの袖を捲っている。
「お、紅茶か。俺にも一杯くれ」
固まる紅葉に怪訝な表情をした神宮寺だった。テーブルの上に並べられたお茶会セットに喉を鳴らす。
当たり前のように宮代の横に座った神宮寺は「暑いな」と言いながらシャツの襟をパタパタ扇いでいる。下世話な話になってしまうが、どう足掻いても、どれだけ譲歩したとしても目の前で暑さに草臥れている生徒会長が女役に見えなかった。
「どうぞ、ハーブティーです」
「さんきゅ」
新しく紅茶を淹れて戻ってきた宮代がソファーに腰を落ちつければ、たちまち熟年夫婦の雰囲気が漂う。
「新田は? 一緒じゃないのー?」
「知らん。途中で消えてた。つーかよぉ、あいつ俺に対してアタリ強くねぇか?」
「僕と宮代には普通だと思うけどぉ? いー後輩じゃん。気が利くし」
なによりもよく周りを見ている子だ。
神宮寺と共に体育祭の準備で外回りに行っていたはずだ。仕事を放り出すとは考えられないが、どこに行ってしまったのか。
紅葉と宮代は誰がどの競技に出るのかなどといった情報整理をして一段落ついたところだった。
「会長じゃないんだし、時間になれば帰ってくるよねぇ」
「あ? なんか聞き捨てならねぇのが聞こえたんだけど」
「気のせい気のせい。で、競技に使う衣装の依頼の方はどーだった?」
言葉も早々にあしらって、業務の話題へと持っていってしまう。
自主性を重んじる綾瀬川学園の行事の殆どを取り仕切るのは生徒会だが、行事イベントの細々とした所を支えるのは各委員会や部活である。
行事イベントの栞やパンフレットを作るのは図書委員会だし、放送機器やアナウンスに司会を務めるのは放送委員会、稀に新聞部も協力してインタビューをしたりもしている。力仕事となれば体育委員会や運動部の出番だ。彼らに仕事を依頼して、土台を作っていくのが生徒会である。
「家庭部がやってくれるとさ。後は競技の順番決めねぇとな」
「それでしたら僕と新田君とで大まかに決めておきましたよ」
「マジで! 絶対これ時間かかると思ってたからさぁ」
「ふふっ。新田君、とても楽しそうに考えてました。予定を立てたりするのが好きなんでしょうね」
ファイルからメモがところどころ走った紙を取り出して、お茶会セットの横に置いた。
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