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運営のテントの下、ジリジリと照りつく日光に汗を流しながら青い空を睨みつけた。
土埃が風に舞い、興奮覚めやらぬ生徒達は今か今かと開催されるのを待っている。
パイプ椅子に座って暑さを訴える紅葉の横には、汗ひとつかかず優雅に足を組んだ宮代が座っている。
肌が白いのもあって赤くなりやすく、日焼けしたあとがわかりやすいのが嫌だった。
日焼けしにくいのもあり、不健康な白い肌は暗闇にいると妙な迫力があると言われる。
「今だけは役員で良かったって心底思う」
「役員生徒の特権だよね」
ピタッと首筋に当てられた冷たい感触に体を大きく跳ねさせた。目を白黒させながら後ろを振り向く。
「っ! あ、理事長先生?」
大げさな反応に肩を揺らして笑う理事長。片手にはキンキンに冷やされたペットボトルが握られている。
体育祭はすでに始まっている。
超がつくほど多忙である理事長の滅多にない理事長直々の激励に、親衛隊だけでなく全校生徒が興奮し浮き足たっている。
「紅葉君は紺碧組なんだね。てっきり月白組かと思っていたよ」
「……なんでか聞いてもいーっすか」
「そりゃ、月白組の団長が神原君だからに決まってるじゃないか」
やっぱりな!
そもそも、組み分けは籤引きだから同じになる確率は低いはずなのに、なぜ誰も彼もが驚くのか。
神原率いる月白 組。
坪田率いる烈火組。
舞波 率いる紺碧組。
その神原に至っては「なんで違う組なの!? しかもよりによって舞波んとことか!!」と愕然としていた。
最近では学年が違うはずなのにニコイチ扱いされるようになってしまった。
身近なところで言えば月白組には宮代がいて、烈火組には神宮寺、新田、青空が。紺碧組は水嶋、桜宮、有名どころだと美術部部長が組み分けされている。
一番バランスがいいのは烈火組だろう。パワー型なのが月白組で、紺碧組は文系が集まっていた。
団長の舞波には悪いが、優勝は無理だろうなぁ。明らかに分が悪い。
「お、神宮寺君も戻ってきたね」
日に当たって少し赤くなっている神宮寺が競技を終えて戻ってくるのが見えた。
気づけば隣にいた宮代はタオルと冷えたスポーツドリンク片手に神宮寺へと駆け寄っている。
「なんというか彼、ほんといい奥さんになりそう」
「美紀 さん。旦那になることはあっても奥さんにはならないと思うな」
「おや、紅葉君だっていいお嫁さんになれると思っているよ?」
「だから、僕も男なんだけどな!」
つい声を荒らげてしまえばきょとんとして「紅葉君が実は女の子だとたらそれはそれで驚きだけどなぁ。きっと女の子でも美人だろうね」と、返事が返ってきた。
そういう事を言いたかったんじゃない!
「ほら、神原君の出番のようだよ。前に行かなくていいのかい?」
「行きませんよ。てか、ある意味ここが最前でしょー」
天然疑惑のある理事長が素で言っているのか、それともからかわれているのか。
暑さに茹だりながら神原に視線を向けた。神原は長ズボンに半袖Tシャツで、額に白の鉢巻をしている。
『我らが鬼の風紀委員長! 神原委員長の出番です――』
放送委員会のマイク越しのノイズ混じりの声はどこか遠くに聞こえた。
ぼんやりと見つめていれば不意に神原がこちらを見た。
パチンッと星が飛びそうなウインクを投げられ、思わず体ごと顔を逸らした。
一瞬の出来事だが勘の良い生徒達はチラリと紅葉に目を向けている。
「熱烈なラブコールだね」
「……そろそろ殴りますよぉ」
「はは、そりゃ怖いね。ふふ、今日は最後までいられるんだ。紅葉君の活躍、楽しみにしているよ」
頭をひと撫でして、職員の待機席へ向かう後ろ姿を睨みつけた。
体育祭が、始まった。
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