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電車の窓に、緊張した顔の自分が映る。
俺はとあるレコード会社のマネージャーとして働いている。この会社に入ったのは、あの龍介さんがギターボーカルを担当しているバンド、というよりも龍介さんが所属しているからだった。いつかは龍介さんのバンドを担当したいと思っていた。そして晴れてその日がきた。俺は龍介さんのバンドマネージャーに抜擢されたのだ。そして今日がバンドメンバーとの顔合わせ日だ。龍介さんもいるはず…。龍介さんのバンドのCDは何度も聞いたし、ライブも何回も行った。しかし勿論会話をするのは初めてで、凄く緊張していた。
「…ふー…。おはようございます!」
顔合わせ用の会議室前で一呼吸し、俺は勢いよくドアを開けた。
「あ、新しいマネージャーさん!おはようございまーす!」
「はよ〜」
最初に元気に挨拶を返してくれたのは、丸い目が印象的で、可愛い顔立ちをした瑛太さんだった。このバンドで、ベースを担当している。次に気怠げに返してくれたのが、由里さん。つり目と黒髪のロングヘアーが印象的な女性だ。バンド唯一の女性で、ドラムを担当している。…ん、あれ?
「今日から担当させて頂く、宮城蒼耶です!…あの、龍介さんは…?」
最初から龍介さんがいない事が気になったが、まずは挨拶し、それから疑問を口にする。
「本当それよっ!」
「ははは〜」
俺の疑問に対して、起こりだす由里さんと、笑い出す瑛太さん。どうしたのだろう?
「あいつ、また遅刻よっ!」
「龍さんは、定刻に現れる事はないよ〜」
「…え。」
「龍さん、絵に描いたような、問題児なんだ。でも、作詞も作曲も龍さんがしてるしで、俺らは強くは言えないんだよね…。蒼ちゃん、頑張って龍さんをコントロールしてねー。あと尻拭い。多分それがメインの仕事になるよ。」
「…はぁ…」
俺は、このメンバーを担当すると上司に言われた時、上司が妙にソワソワとして「嫌になったら直ぐに次を見つけるけど、できたら2ヶ月は頑張って」と申し訳なさそうに言われた事を思い出していた。
それから、龍介さんを待ちながら3人で顔合わせをした。
瑛太さんは人好きする笑顔で話してくれて、俺の緊張を和らげてくれた。由里さんも、キツい印象だったが、単純にルールをしっかり守っているだけだで、ちゃんと話してくれた。このバンドメンバーは皆俺より年上なので、年下に自分達の管理を任せられないという態度をとられるのではと危惧していたので、すんなり受け入れてもらえて少し安心した。
ガチャッ……
「うっす〜…」
「!」
それから1時間弱して、龍介さんが現れた。
「こらっ!龍介、遅すぎでしょっ!」
「龍さん、もう顔合わせの時間、後数分しか残ってないよー。」
現れた龍介さんは、明らかに寝起きな雰囲気で、眠た気だった。
「あー、煩い煩い。頭に響くから、一度に喋るなって。」
龍介さんは、カバンを漁りながら、ギャンギャン文句を言う由里さんと、由里さんに隠れつつも文句を言っていた瑛太さんを一喝した。
「あのー龍介さん、今日から担当させて頂く、宮城蒼耶です。よろしくお願いします。」
煩いと怒られるかなと思い、俺は控えめにドキドキしながら龍介さんに挨拶をした。内心、憧れの人に会えて感無量だった。
「あー、よろしくー」
「…」
対する龍介さんは、こちらをチラリと見ただけで、もうこちらへの興味をなくしたようだった。俺と龍介さんの温度差がすごいな…。仕方ないけれども。
「ねー、龍さん、蒼ちゃん、俺らってか、主に龍さんの大ファンらしいよ!!」
「…へー、そう。」
瑛太さんの言葉を聞いてもなお、龍介さんは鞄を漁る手を止めない。対して興味なさげだ。
「じゃ、水買ってきて。持ってくるの忘れた。」
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水を買って戻ると、龍介さんたちはもうそこに居なかった。
ブーブー
携帯がなるので、慌てて携帯を見ると、瑛太さんからだった。
「蒼ちゃん、ごめんね。次の音楽番組の収録間に合わないから、移動してる。追ってきてくれる?」
(なんか……はぁ…。)
もやりとりするものはあるが、龍介さんは気難しいとよく聞くし、最初は仕方ないと自分に言い聞かせた。
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コンコンッ
「龍介さん水買って来ました。」
「わー、蒼ちゃんごめんね。」
「次の時間、龍介のせいでおしてて、ごめんなさいね…。」
「…ん。」
なんとか龍介さん達に追いつき、龍介さん達の控え室に入る。俺をみて慌てたように瑛太さんが誤る。由里さんも申し訳なさそうにする。しかし、龍介さんはこちらを見もせず手だけを出してくる。
「…え?…あ、はい。」
その手に俺は買ってきた水が入った袋を慌てて渡たす。
「…なにこれ?」
袋を漁った龍介さんが、なかに一緒に入っていたガムを見つけて尋ねてくる。
「前、龍介さんが、禁煙してから口寂しい時や疲れた時はガムを噛むって言っていたので…。あの……要らなかったらすみません…。」
「…へぇー…いいじゃん。サンキューな。」
(あ、でた…。)
龍介さんがこちらを見て、口の端を上げて笑った。俺はそんな龍介さんを見て、呑気にも、昔憧れた笑顔が目の前に出たなと考えていた。それと同時に、今日初めて龍介さんに存在を認識された気がして嬉しくもあった。
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