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しかし、それから3ヶ月、俺はいまだに龍介さんに振り回されていた。
「龍介さん、今何処に居るんですか?もう収録始まっちゃいます!!」
テレビの音楽番組の収録直前になっても龍介さんは現れず、俺は軽くパニックになりつつ龍介さんに電話をしていた。
『あー、無理。今出れないわー。』
「え、無理って、む、、無理ですっ!ダメです!!直ぐに来てください!」
『…チッ、今は無理!代わりに謝ってて。』
龍介さんはいつもの調子どころか、いつもより短気に俺の電話を切った。きっとかけ直してしてももう出る事はないだろう。
「もー……困った…。」
「蒼耶くん、大丈夫?本当にうちのギタボ、クソでごめんね。」
由里さんが心配気にこちらの様子をみて謝ってくる。
「龍さん、新曲作成期間は毎度こうなんだよなぁ…。蒼ちゃん、ごめん…。……そして、龍さんの代わりに一緒に謝ってー。」
「…はぁー……。」
思わずため息が漏れる。龍介さんは好きだし、このバンドも好きだ。由里さんと瑛太さんはしごく真面目に活動してるので、なんとかこのバンドをもっと有名にしてあげたい。しかし…
「龍介さんがまだスタジオに来てないので、収録出来ません。」
「龍介さんと連絡が取れず、打ち合わせがリスケです。」
「また龍介さんがいないのかと、先方が怒っています。」
この繰り返しの日々は、流石にきつい。俺のメンタルもだが、何よりこのバンドの行先がこれでは不安過ぎる。どうにかしないと…。
瑛太さんが最初に言っていた通り、このバンドの作詞作曲は全て龍介さん1人で行っている。それもあり、由里さんも瑛太さんもちょこちょこ小言は言うがあまり強くは龍介さんに物申せない様だ。そもそも、バンドは組んでいるがプライベートは干渉しないグループの様なので、龍介さんが何を思っているのか、いまいちその辺りが誰にも分からない。それが問題なのだろう。曲を売るには、宣伝活動も必要だし、それこそ龍介さんはルックスが良いので、広告塔にしたいくらいだ。早々にこの問題を解決せねば。
(龍介さんと少し話す必要があるな。)
俺が説得できる相手では無い気もするが、なにか自分に出来ることが少しでもないか、その一心だった。
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ピンポーン……ピンポーン…
先程から龍介さんのマンションの呼び鈴を数回鳴らしといるが、全く反応がない。作曲中のようだったから、音が聞こえないのだろうか?
「……仕方ないなぁ…。」
怒られないか怖いが、勇気を振り絞り龍介さんの家の鍵をスペアキーで開錠し部屋に入る。
「…モデルルームみたいだな…。」
突然押しかけて龍介さんに怒られないかビクビクすると同時に、憧れの龍介さんの家にワクワクもしていた。しかし、龍介さんの部屋はびっくりする程生活感が無く、最初に出た感想がそれだった。
「龍介さんー。龍介さん、いらっしゃいますかー?」
がらんとした部屋に俺の声が響く。物がないからか、余計に声が大きく聞こえる気がする。怒られないか…、怖いな。
「…?」
奥の方から僅かに音がする。そちらへ足を進めると、小さなスタジオがあった。ドアの一部がガラスになっている。その箇所から中を覗いてみた。
「……わっ…」
部屋の床に散らばるペットボトル、食べかけのスナック。この部屋だけ、やたら生活感があふれている。その中央には、真剣な顔でギターを弾いて、譜面に何か聞いて…それ一心不乱に繰り返している龍介さんがいた。いつも上げている前髪はセットされておらず、さらに眼鏡をかけて居るので一瞬誰か分からなかった。しかし意志の強い目は相変わらずで、凄くレアなものを見れたようで少し微笑んでしまった。思わず、ただのファンに戻ってしまう。
「龍介さん…、楽曲作成が本当に好きなんだな。」
龍介さんが中々外に出ない理由が分かった気がした。きっと、ずっと、音楽を作って、演奏をしてと、それだけしたいのだろう。それが龍介さんの中の最優先事項で、それによって他のタスクが逼迫してしまうんじゃないだろうか。
「うーむ…。」
しかし、分かったところで…。作曲もバンドの宣伝活動も、どちらも龍介さんの代わりを俺がする事は出来ない。
(そうだな。せめて、体調だけも整えてもらおう。お腹が膨れると、気分転換にもなるかもだし。)
俺は龍介さんの足元散らばる、食べかけのクラッカーをみて、そう考えた。
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