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「おぉ、中々いい感じに出来たかな?」 ガチャッ… 独り言をいいながら鍋の様子を見て料理をしていると、龍介さんが部屋から出てきた。 「…!!りゅ……、龍介さん、お疲れ様です。ここ数日中々会えなかったので、心配になって…きました。」 急な事なので、心臓が飛び出る程びっくりしてしまった。しかし、挙動不審になると更に悪印象だと思い、必死に取り繕うように話す。 「……あー、蒼か。昨日はサンキュな。ってか、何作ってんの?」 「…!う、…どんです…。」 ちょっとびっくりした。昨日の事を謝るという、律儀さ?に少し驚いたからだ。そして、俺が急に現れたのに、全然動じない龍介さんに、俺の方が更にきょどきょどとしてしまう。 「うどん?」 龍介さんはこちらをチラリと一瞥し、怠そうに首をポキポキ鳴らしながら、冷蔵庫からペットボトルを取り出し飲み始める。 「あの…、龍介さん、楽曲作成で忙しくてご飯もきちんと取れていないのかなと思って、胃に優しいものをと思って……作りました。」 言ってて妙に恥ずかしくなり、言葉がしりつぼみになる。あの刺青が入った両腕で、骨張ったゴツい手で、お箸を持って、うどんを食べるのだろうか。いや、そもそも食べてもらえるのか…? 「ふーん…。」 「……。」 ふーん。ただそれだけ言って、龍介さんは俺とうどんをまじまじと見おろす。何故か恥ずかしい…。俺の視線が軽く泳ぐ。カアァァッと、顔が赤くなるのを感じる。 「…ふっ。」 「?あの、よそいますね。」 龍介さんが、口の端を歪めて笑いを漏らし、こちらを見下ろしていたような気がした。しかし、俺はそれ以上龍介さんの顔を見れず、気まずさから抜け出すように、うどんをよそう。 龍介さんはというと、この間にさっさとテーブルに移動している。つまりは、食べてくれるってことだよな?俺はそう解釈して、テーブルに移動した龍介さんにおずおずとうどん差しだす。 ずずっ 「……はは、美味いじゃん。」 ははっという軽い笑い声の割に、俺が見た龍介さんはいつもの口の端を歪める笑いではなく、柔らかい笑顔を浮かべていた。こんな笑顔も出来るだと失礼なことを考え、思わず見入ってしまう。 「うどんか…。作ってもらうの、初めてかも。」 「なんか……、もっと…、こう、龍介さんっぽい、カッコいい料理でなくてすみません。」 「ふっ、何それ?美味しいよ、うどん。」 龍介さんが口の端を緩める。…カッコいいな。うどんを食べているのに、カッコいい龍介さんって凄いな。因みに俺はうどんが地味に得意料理で、うどんが似合うともよく言われる…。 --- 「はー、食った食った。」 「お口に合ったようで良かったです!」 結局、龍介さんは完食してくれた。凄く嬉しくて、思わず満面の笑みで龍介さんにコップにのお茶を渡しながら言う。 「……。」 俺の笑顔を見て、龍介さんがわずかに目を細め、ペロリと舌舐めずりをした。…ような気がしたが、食後だから、ただそんな感じになっただけだろな…。というか、俺、少し馴れ馴れしかったかな。 「…蒼は、マネージャーよく続くな。殆どは2ヶ月もしないうちに、辞めていったからな。」 「実は、その事でお話があります。」 俺の話したかった話を龍介さんが始めたので、思わずくい気味になって話に食いつく。 「正直、俺もキツいです。」 「…へー。そうなの?」 真顔の龍介さんが片眉を上げて、尋ねてくる。椅子の背もたれに片腕をかけ、ダラリと座った龍介さんはいつも以上の迫力で、何故か俺が怒られている気分でドギマギしてしまう…。 「…お、俺、龍介さんの作る音楽が凄く、大好きです。曲の構成は繊細で、けれど勢いもあって、歪んだ音もですが、間に挟むクリーントーンが凄く好きです。独特の世界観がある歌詞に、よくマッチしていますし。」 「…」 龍介さんはなにも言わず、射抜くように俺を見つめる。 「それなのに、あんなにいい音楽なのに、多くの人に聞いてもらえない。龍介さんがずっと音楽をしていたいのは凄く分かります。けれど、テレビやラジオの広報活動も大事です。広報活動をしないと、音楽を人に聞いてもらえないし、これから先作り続ける事も出来なくなるかも知れない。」 俺は勇気を振り絞り、正面に座る龍介さんのギギッと目線を合わせる。 「だから、龍介さんが打ち合わせや番組に来ないと、俺はキツイです。大好きな龍介さんの音楽が無くなりそうで。だから、来てください。」 「…ふーん…。」 今まで無表情で俺の話を聞いていた龍介さんが、ゆっくりと口の端を上げていき、最後にニヤリとする。人の表情の変化を目の当たりにして、この場も忘れて一瞬ぽかんと見入ってしまう。 童話に出てくる意地悪な猫の様な笑みを浮かべて、ダラリと崩していた姿勢を正し、前のめりになり、こちらへ手を伸ばしてくる。こちらへ伸ばされた掌が、徐に俺の頬に触れる。 「…っ!」 「ふふっ…。」 俺が思わず大袈裟にビクつくと、龍介さんは更に満足げに目を細めた。蛇に睨まれた蛙の様に体が動かない。ビクつく俺の様子すら嬉しそうで、動くとこのままバクリと食べられそうだ。 「…いいじゃん……。」 え。何が。俺の話を聞いた感想にしては微妙な反応に、ハテナが浮かぶ。 「…い、…いやいや!と言うか、俺の話、龍介さん聞いてました?」 やんわりと龍介さんの手から逃れつつ確認する。 「分かった。ちゃんと広報も参加する。その代わり、」 「…その代わり?」 「ランキングで1位を取ったら、俺の我儘を1つ聞いて。」 「?何ですか?それ?いいですよ。ただ、俺に出来る事に限りますからね?」 なんだ?龍介さんの我儘が何なのか見当もつかないが、それよりも、俺はランキング1位とは大きくでたなと感心していた。今、龍介さんのバンドは1位どころが10位にも入っていない。1位になれたらそりゃ嬉しいけれど、そんなに甘くないよな。でも俺は、理由がどうであれ、龍介さんがやる気になってくれたようで一安心していた。 --- 次の日のテレビ番組の収録に、宣言通り、龍介さんは定刻前に現れ、周囲を驚かせた。 「はー!やたらカッコいい子だねぇ!アイドルじゃないんだよね?」 「えぇ、アイドルというより、バンド活動をやらせてもらっています。」 テレビ司会者の質問に、受け答えもちゃんとしてくれている。 「何を食べたらこんなにカッコよくなんだろうね?好きな食べ物とかあるの?」 「そうですね、…うどん、とか、大好きですね。」 「これまた意外だね!ギャップだね!!」 俺の思い違いかも知れないが、そう言った龍介さんが、こちらをみてニヤリとした気がした。司会者が意外意外とはやしたて、周囲が騒々しく笑っている中、俺は何故か龍介さんから目が離せなかった。喜び?いや、戸惑い??それよりも………恐怖?自信に湧き上がる感情に、自分で戸惑っていた。

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