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「おぉ!猛獣使い、お疲れ〜。」 「猛獣使い、夜遅くまで頑張ってるね〜。流石〜。」 猛獣使い…それは俺の事だった。うどんの一件以降、龍介さんは人が変わったように真面目に広報活動も参加している。龍介さん=猛獣 を手名付けたと、俺は社内で評判になっていた。 龍介さんのバンドとは言うと、事務所も目をつけていたようで、龍介さんが真面目にやるならとかなり龍介さん達に注力してくれた。その甲斐もあり、龍介さんのバンドはメキメキと頭角を表していた。約束のランキングで1位も、夢でない勢いだ。 「宮城、龍介さんってもう帰った?」 「はい。今日はもうこの後何も無いし、私用が有るとかで帰りました。」 「あぁ、そうなんだ。なる早で頼まれてたシールド届いたんだけど…、大丈夫かな…。」 そうか、断線したケーブルを急ぎで発注していたんだった。俺の脳裏に、黙々と新曲作成に熱中する龍介さんの姿が浮かぶ。 「あの…、素早い手配ありがとうございます。多分新曲作りにも必要だと思うので、俺、帰りがけに届けます。預かりますね。助かりました。」 「おー、もう遅いのに、ありがとうね。よろしく。」 ---- プルッ ガチャッ 「なに?蒼?」 おお、早い…。前は電話をしても無視される事多々だったが、最近はワンコールするかしないかで出てくれる。助かる。 「あの、頼まれてたシールドきました。すぐ使うと思いますので、今から届けますね。」 「あー、……いや、今『なにー??蒼ちゃん⁈蒼ちゃんなの〜??来てっっ!来て!!呼んで〜!』宗介、黙れっ!!」 なんだか電話越しにギャーギャー言い合う声が聞こえる。龍介さんにしては珍しい騒ぎようだ。余程、仲が良い人と呑んでいるのだろうか。 ---- 「蒼ちゃんーっ!!こっちこっち〜。」 遠くから大柄な人が手を振っている。 結局、俺は龍介さんが友達と呑んでいる所へ途中参加することになった。電話口にやたら騒々しくよく聞こえなかったが、3人で呑むはずが1人来れなくなったからとか、なんとか言っていた。嬉しさ半分、ドキドキ半分だ…。龍介さんの友達って、どんな人なんだろう。 呼ばれたテーブルに向かうと、少し不機嫌そうな龍介さんと、やたらニコニコとしている龍介さんに負けず劣らずのカッコいい人がいた。背丈も同じように高そうだ。モデルの人かな? 「あの、途中から急にすみません…。」 龍介さんの不機嫌な様子が少し怖くて、様子を伺いながら挨拶をする。 「ううん。こっちこそ、急にごめんね〜。俺、宗介。」 「いえいえ!誘って頂いて嬉しいです!宗介さん、よろしくお願いします。龍介さんのマネージャーしてます。蒼耶と言います。」 宗介さんは、垂れ目がちな目が印象的な凄いカッコいい人だった。龍介さんの一見恐ろしげな見た目とは真逆の、柔らかい雰囲気の人だ。 「ふふ、なるほど、なるほど。」 「…?どうしました?」 「いや、別に〜。」 何やら、宗介さんにジロジロと見られる。何だろう…。 「蒼ちゃんの話は、龍介からよーーく、聞いてるよ。」 「はぁ……。」 「なんか、蒼ちゃん、あれだな。芝犬とかそんな感じ。可愛い〜。」 「えぇ!?………はぁ…ありがとうございます。」 「ははは!お礼言われた!」 「おいっ!もう良いだろ。蒼、それより、シールドは?」 反応に困っていると、龍介さんが間に入って助けてくれた。 「あ、はい。頼まれていたシールドです。」 「ん、ありがと。蒼、何呑む?車?腹減ってる?」 頼まれてたシールドを龍介さんに渡す。龍介さんは受け取りながらそのまま、俺の飲み物やら食べ物を頼んでくれる。ここ数日、距離も縮まり、なんとなくだが仲良くなれて、龍介さんが優しくなった気がする。素直に嬉しい。 「ははは、本当、凄いもん見れそうだな。今日は。あの龍介が…」 「へ?」 何のことだろう?宗介さんがなにやらブツブツ言う。チラリと龍介さんをみると、ギロリと宗介さんを睨んでて、こっちがビビってしまう。当の本人の宗介さんは、どこ吹く風でスルーだし…。 「ねぇねぇ、蒼ちゃん、龍介の相手って、ちょーめんどいと思うけど大丈夫?」 「全然です!楽しくやらせてもらってます。」 「ふーん、それは意外な。」 「宗介、変なことばっかり言うなよ。」 俺の回答に、刺々しい雰囲気だって龍介さんが幾分柔らかくなる。良かった。 「ところで、お二人はよく呑んでいるんですか?」 俺はずっと気になっていた事を、2人に聞いてみる。どういう関係の2人なんだろう? 「龍介と俺は中学からお友達なんだ〜。似た者同士だからね。だらだら、仲良くしちゃって…よく呑むよね。ははは。」 「ははは、俺と宗介似てるとか。本気?」 そう言って、2人で盛り上がってる。とりあえず、この2人はめちゃくちゃ仲良いということが分かった。 「似てるとか言われても…、俺は宗介と違って、下半身ゆるゆるで遊び回ってないから、な。」 なっ。と龍介さんがこちらを見てくる。『なっ。』と言われましても、な。 「そんな〜、俺だけクズみたいじゃん〜。」 「クズだろ。蒼、コイツは日替わりで女変えてるし、ほぼ毎日やってるし…。とにかく最悪だから、気を付けろよ。」 「え。」 「そんな警戒させないでよ。俺も男は守備範囲外だし〜。柔らかい女の子がいい。気持ちいいし、可愛いし、大好きー。でも、毎日とか!そんなにはしてない!蒼ちゃん、違うからね。ってか、周りに色々な子がいたら、色々試したくなるよね?箱の中の色鉛筆、全部ためしたくなるよね?男なら。ね?」 次は、ねっ。と宗介さんがこちらを見てくる。またか…。『ねっ。』と言われましても…。ねっ? 「蒼ちゃんも、男なんかより、女の子が好きだよね?」 宗介さんが先ほどの温和な笑みから、ニヤリと人の悪い笑みをうかべ、何故か龍介さんの様子を見ながら聞いてくる。龍介さんはピクリと反応し急に黙り込んでしまい、じっとこちらを見てくる。 確かに、βの俺にはほぼ関係のない話だけど、この世の中に存在するαとΩの影響で、男同士での恋愛はさほど珍しくない。男同士でも結婚できるし、相手がΩなら男でも妊娠できる。 「それは…、俺も女の子は好きですよ。でも、俺、経験値がかなり低いです…。俺、βですし!宗介さんや龍介さんはカッコいいし、凄くモテそうですよね!正に、αって感じで!」 なんだか場が妙な空気になった気がして、無難な回答をしてみる。 「ははは、ほらな、宗介。蒼は宗介なんかとは違うんだよ。大体、そんな調子じゃ、跡取り息子として全然だめだめじゃねーか!」 「はは、あんな会社、継ぐつもり全然ないし〜。スペアがやる気満々だから、俺は必要ないし。咎められない程度に遊んで、緩く生きるし、俺。」 「既に咎められるレベルだろうが!そして、弟をスペア呼ばわりするから嫌われるんだぞ。」 俺の回答に龍介さんが楽しそうに笑ってくれて、宗介さんもニコニコ顔に戻り、再度その場が和む。 しかし、宗介さんと話していると、龍介さんはいつもとかなり雰囲気が変わる。幼くなるような、素に戻るような、何だろう…。けれど、憧れの人の知らない一面を知れたのは、素直に嬉しい。

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