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今日は散々だった。ライブにマネージャーがグロッキーなまま現れるという醜態を晒してしまった。
「あ、蒼ちゃんおつかれ〜!体調もう落ち着いた?」
ライブ帰りに今日泊まるホテルの確認を裏でしていると、瑛太さんがジュースを飲みながら、顔をひょっこり覗かせてきた。
「はい。本当に大事な時にお見苦しいところを見せてしまい、すみません。」
「全然だよ!無理しないでね!」
メンバーも瑛太さんも皆優しくて、更に罪悪感が募る。
「本当、失態です…。今朝も彼女に叩き起こされて起きて、今日は本当にヘマばっ「えぇ!?」
ガタンッ
今朝の出来事を思い出して話していると、瑛太さんが心底びっくりという顔でこちらを見てくる。つるりと瑛太さんの手から飲みかけのジュースが落ちて、溢れる。
「まって!まってまってまって!!」
「どうかしました?」
何だろう。びっくりしてしまう。いや、俺以上に瑛太さんが酷く動揺している。
「蒼ちゃん、彼女いるの?!しかも、それ、同棲してるの?」
「そうですけど…。」
凄い勢いで、焦ったように瑛太さんが掴みかかってくる。
「龍さん…龍さんは、それ知ってる?」
「え?いえ、知らないと思います。」
これは、何処かで同じような事があったような。俺の回答に、更に瑛太さんは動揺する。
「えー!やっぱり……。ヤバイよ。これはヤバイよ…。どうしよう。」
次は頭を抱え込んで何やらぶつぶつ言っている。
「別れる予定とかは?」
「え?!まさか…、むしろ、そろそろ結婚…、しようかな…とか…「えぇ!!それはダメっ!絶対ダメ!」
このバンドの中で瑛太さんは一番話しやすい。だから勇気を出して、プロポーズの話をしてみるが、秒で否定される。ちょっとショック。
「ねっ、今すぐ別れて!」
「え!それは…ちょっと無理です…。」
「ととと、とりあえず、彼女とは距離取ろうよ〜!それが身のためだよ。じゃないと、後が怖いよっ!」
瑛太さんは俺の肩を掴み、ぐらぐら揺すってくる。何故…。どうしたんだろう…。
「あぁ、どうしよう…。大変な事を知ってしまった…。そして知った以上…どうしよう…。」
その後瑛太さんは少し考えさせてと何処かへ行ってしまった。台風みたいだ。
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「蒼耶?」
緊張のあまりぽーとしてしまう。向かいに座る雪子が心配そうに聞いてくる。雪子は付き合って丁度3年経つ恋人だ。今日は付き合い初めた記念日だったので、奮発してレストランでコース料理を食べにきたのだ。そして、俺は今日プロポーズするつもりだ。ドキドキする…。
「ごめんごめん。なんか、ぼーっとしちゃった。」
「そう…。最近仕事が忙し過ぎるんじゃない?大丈夫?」
「うん。心配してくれてありがとう。」
雪子は最近特に俺の仕事が忙しい事が不満なようだった。いや、心配してくれている、のかな?
「全部美味しかったけど、最後の紅茶も美味しいね。」
雪子が満足気に話す。雪子の笑顔を眺めていると、幸せを感じる。
「うん。コーヒーも美味しいよ。…でさ、」
「うん?」
ドクン、ドクン。緊張で体が縦振動しそうだ…。
「雪子、俺と、結婚、…してください…。」
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「龍介さん、どれだけ肉入れたんですか!アクが凄いですね…。」
「ははは、蒼、頑張ってアクをとれ。」
龍介さんのバンドはあれから程なくしてランキング1位を取得した。事務所の推しと、龍介さんたちの頑張りと、全てがいい方向にハマってあれよあれよと言う間に取れた一位だ。龍介さんはその見返り?にまたうどんを作って欲しいと言ってきた。そんなことなら普通にやるのに。
しかし、うどんが食べたいと言うわりに、龍介さんは肉ばかり入れるので、結果俺はアク取りに励んでいた。それを龍介さんが面白そうに見ている。
「はい、出来ました!一位おめでとうございます!」
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「あー、美味しかった。」
「龍介さん、ほぼ肉食べてます…。麺より肉食べてましたね…。でも喜んでもらえて良かったです!あ、お茶、つぎますね。」
「ん。」
満足気な龍介さんが湯飲みを差し出す。喜んでもらえたみたいでこちらも嬉しい。
「けど、皆本当に頑張りましたね!由里さんと瑛太さんも…。」
「まぁな。瑛太はすぐ楽に弾こうとするから、アイツにしては頑張ったな。」
「ははは。」
良くスタジオの外まで、瑛太さんが怒られる声が聞こえた事を思い出して笑ってしまう。
「蒼もな。蒼も頑張ってた。」
龍介さんがそう言って、満面の笑みをみせる。…初めての満面の笑み…。ヤバイな、泣きそう。だって、なんだか…
「なんだか、感無量です…。」
思わず声に出してしまった。
「なに?」
龍介さんが少し笑いながら聞いてくる。
「いえ、俺、凄く嬉しいんです!ずっと、龍介さんたちを支えます!頑張ります!」
龍介さんが口の端を歪めニヤリとする。あれ?なんだか、雰囲気が。
「ずっと?」
「…は、い。」
龍介さんから得体の知れない雰囲気が漏れ出し、何故か言い淀みそうになる。
「…。じゃぁさ、」
すっと椅子を立った龍介さんが俺の背後に回る。俺は突然のことに龍介さんについていけず、次に気づいた時は龍介さんに後から抱きしめられて居た。
「ずっとここにいて?」
耳に口を寄せ、龍介さんが呟いた。急に耳に息がかかり体がビクつく。そんな俺にふふっと、龍介さんが耳元で笑う。
「え?ははは、なに言ってるんですか。冗談ですか?」
異様な雰囲気だ。なにが起こって居るのか、冷静さを保ちたくて目の前のうどんが入っていたどんぶりや湯飲みをみるが、冷や汗が垂れる。
「本気だし。俺、蒼のこと好き。」
「…え?」
「だから、ずっとここにいて?」
好き?好き……俺も。龍介さんは好き。でもその好きは憧れからくる好き。小さい子が戦隊ヒーローを好きなように。でも、龍介さんの言う好きは?これは一体…。
『でも、それ、なるべく龍介に言わない方がいいかもね〜。』
『とりあえず、彼女とは距離取ろうよ〜!それが身のためだよ。じゃないと、後が怖いよっ!』
いや、俺は知ってた。本当はわかっていたけど、認めるのが怖くて。認めると楽しい夢が終わりそうだったから。
そもそもなんでここに来たんだろう。なんで、1人でここで龍介さんと対峙して、大丈夫だと思ったんだ。俺は急に怖くなる。
「龍介さん、すみません…。俺、帰りますね。」
ガタンッ
龍介さんの手を振り払い、俺は席を立つ。失礼だとか何だとか考えられず、恐怖から逃げるように急ぎ足で玄関に向かう。
ギッ
「…!」
玄関のドアを開けようと、戸にかけた手に龍介さんの手が重なる。ぐっと俺は力を込めるが、龍介さんの手はびくともしない。
「りゅ、すけさん…?」
「蒼、結婚するんだって?」
「え。」
何故それを。いや、何で今?
「…折角、ゆっくりじっくり優しく進めてやろうと思ったのに。」
恐る恐る見上げた龍介さんは笑っていた。目が合った瞬間、龍介さんは目を細めた。俺はゾッとしてしまい、目が離せなる。
「けど、それももう必要ないか。」
「…あ……っ!」
ガタンッ
急に背中を後ろに引かれ息が詰まる。龍介さんが俺の服の襟首を片手で掴み、強引に引っ張って歩き出す。俺は足が縺れ転けてしまう。それでも龍介さんは気にせず引っ張る。
「はっっ、うぅっ!!ちょっ…、まっっ……!!」
「はは、苦しそうな声いいじゃん。」
息が詰まる。堪らずに呻き声を上げると、何故か上機嫌な龍介さんの声がする。怖い。生理的な涙が目から溢れ、ガリガリと龍介さんの手を引っ掻いてしまう。
「もー、蒼、大人しくしろよ。最初くらいは優しくしてやったのに。これは躾をしないとだなぁ…。もうここでいっか。」
え、しつけ…。息が苦しくて、考えが四方八方に分散する…。
何やらブツブツ言う声が聞こえ、そろそろもう意識が落ちそうになったところで、急にどこかに押し込まれる。ガシャンとなにかが倒れる音が響く。
「っ、はっっはぁっはぁっ、うっ!」
やっと解放されて、その場に蹲り、呼吸を整える。しかし、急に龍介さんに仰向けに引き倒されたかと思うと、キスされる。それが更にパニックで、息がうまく出来ない。両手を押さえこまれ、のしかかられて足も動かず、されるがままだ。
「…っふっ、はっはっはっ…」
「ふっ、泣いてる?はくはくして…いい顔になちゃって…。」
長い時間ねっとりと口内を舐め上げられ、やっと解放された時は、狂ったように空気を取り込んでいた。息も絶え絶え、苦しみで歪む俺をみて、龍介さんがうっとりと笑う。さっきの満面の笑みに匹敵するくらいに、満たされた顔だった。なんで。なんでなんで。酸欠が続いたからか、頭痛がする。よく見れば、自分が倒れているのは龍介さんの家のスタジオ内だった。
「…えっ。りゅ、龍介さんっ?」
状況を整理しようとしていると、するりとベルトを抜かれる。そして俺のズボンに手をかける龍介さんに恐る恐る問いかける。
「なに?」
「なにして…。」
「ははは、まだ分かんないの?」
いや分かる。だから、急いでこの家を出ようとしたんだ。
龍介が身をかがめて、俺の顔にその顔を近づける。首筋をひとなめされて、また俺はびくりとしてしまう。
「蒼、犯してやるよ。」
唇が触れ合いそうな近距離で、鼻歌でも歌い出しそうな龍介さんがそう言った。
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