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ピンポーン… 誰も出ない。最初来た時のデジャブみたいだ。あの日に戻らないかな。 「りゅ、龍介さん…、こんにちはー。……入りますよー」 玄関でうだうだしていても何も解決しない。俺は思い切って部屋に入った。相変わらず生活感のない空間が広がる。 まず、多分龍介さんが生活の拠点としているスタジオを覗く。しかし、誰もいない。スタジオ、リビング、お風呂、トイレ、全部みたが居ない。昨日に引き続き冷たい雨が降っているので、電気もついていない広い部屋は薄暗く、人気がないと幽霊屋敷みたいだ。残るは… 「…」 寝室。正直1番入りたいくない。ここでされた事がありありと頭に浮かび、足がすくむ。 コンコンッ 「龍介さん…?居ますか?」 ガチャリと顔だけ覗かせ、中の様子を確認する。 「…?龍介さん?」 ベッドの上には、仰向けに寝たまま、頭に腕を乗せて苦悶の表情を浮かべる龍介さんが居た。様子が変だ。もしかして 「龍介さん、大丈夫ですか?体調悪いですか?」 思わず駆け寄っていた。そうか、昨日…、俺が寒い中待たせから。そういえば、別れ際に龍介さんの肩、俺が居ない側の肩が酷く濡れていた気がする。きっと俺に傘を傾けてくれていて…。軽くおでこを触ると、かなり熱い。龍介さんはいつも体温が低めだからか、尚更熱く感じる。 「ん…。」 眉間にシワをつくった龍介さんが薄く目を開けた。人より肌が白く、顔が整った龍介さんの悩ましげな顔は妙に色気があり、色々と頭から飛んでいきポカンと見入ってしまう。 「蒼…具合悪りぃ……。」 「………ぁっ…ですよね!ちょっ、ちょっと、待ってください。会社に電話して、そして午後と明日のスケジュールも調整します。あと、病院の予約して…」 「あぁ?」 ぽかんとしている龍介さんを尻目に、俺は会社への連絡やらスケジュール調整やらを行う。 --- そのまま龍介さんを病院に連れて行きその流れで俺は会社に戻ろうとしたが、結局捕まってしまった。しかしきっと俺のせいで風邪を引かせてしまったんだと思うと、強く拒否もできなかった。病院に連れていって、お粥を作って、食べさせて、これまでの出来事が嘘の様に普通だ。だから油断していた。 「龍介さん、寝る前に薬飲んで下さい。」 「……くそだりぃ…」 高熱ではなくなったが、まだ本調子からは程遠そうな龍介さんはぼやく。 「薬飲んで、夜ぐっすり寝れば、またすぐ良くなりますよ。と、先生が言ってました。」 病院で医者が言っていたコメントを伝える。 「……蒼、寝かせろよ。」 「え?」 何か龍介さんがボソリと呟くのは聞こえたが、意味が分からずに聞き返してしまう。 「蒼が、俺を、寝かせろよ。」 「………っ!!」 聞こえても意味が分からず、いや、分かるがさっきまでの日常とは解離の大きい発言にどう、反応していいか分からず固まる。そうこうしているうちにぐっと腕を引かれ、ベッドに引きずり込まれてしまった。ふわりと龍介さんの匂いがするベッドに、形を潜めていた恐怖が胸中に湧く。龍介さんが俺の上に乗り上げ、マウントポジションを取られる。 「…え、それは、どういう…」 「そのまんま。怠いし、頭痛いし、寝過ぎてもう寝くない。だから蒼がなんとかしろよ。俺の気分を良くさせるとか……俺を気持ちよくして、疲れさせるとか、さ。」 口の端を上げ龍介さんが笑う。俺は分かりやすくオロオロとしてしまう。 「まー、蒼が自分で出来ないなら良いよ。仕方ないから、俺が自分でやるわ。蒼の身体使って。」 「え、まっ…分かりました…」 「やるならちゃんとお願いしろよ。」 「…俺に、やらせて下さい…。」 何故か俺がやりたがってる方向に話が進んでいる…。 と、とりあえず、龍介さんの言葉のままの意味でやってみよう…。そうだ、母親が昔やってくれたみたいに。 「…っ」 俺は龍介さんの頭に、輪郭をなぞる様に手を這わせる。セットされていない髪が手にふわふわと当たる。本人に言うと怒られそうで口が裂けても言えないが、陶器の様に透き通る龍介さんの肌は、手触りが良い。片手でおでこにかかる髪をサイドに寄せて抑え、おでこに軽くキスを落とす。龍介さんが目を細めるのが気配で分かった。そのまま胸に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。そのまま背中に手を当てて、トンットンッと軽く叩くのを繰り返す。 「………」 「………」 「…………」 「………は?蒼?」 暫くそのまま緩くトントンしていると、痺れを切らした様に龍介さんが声を出す。 「あ、えと…、心音…聴きながらトントンされると、眠くなりません?」 「……はぁー、…赤子かよ。」 意図を説明するも、呆れた様な声を出されて戸惑う。 「まぁ、いいわ。今日は。毒気抜かれたし、やぱ流石に怠いし。」 そう言って、龍介さんはポジションを探る様に俺の胸の中でもぞもぞした後、そのまま大人しくなり目を瞑る。なんだか猫みたいだなと、失礼ながら考えてしまう。 あぁ、転職面接の為に空けていた休日が今回のリスケで潰れたので、そちらの調整も後でしないととかなにやら考えているうちに、龍介さんから静かな寝息が聞こえてきた。つられて俺の方も眠くなりいつの間にかそのまま寝てしまった。

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