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23※龍介視点
項を噛むと、蒼はぱたりと意識を手放した。
「ふふっ」
俺は満足気に笑うと、蒼から引き抜いた。見下ろすと、蒼は意識がない中でも痙攣しており呼吸も荒い。
「はぁー…」
可愛い。愛おしい。
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4週間前、その日は玲次が来る日だった。玲次は蒼を見た後、渋い顔で話し出した。
「龍介、やり過ぎ。」
「え〜。」
「お前が蒼耶にストレスかけ過ぎるから、蒼耶の変化が上手くいかない。お前が盛り過ぎなんだよ。蒼耶の手首にあざもあるし…。何した?」
「あー。」
昨日、縛ったからかな…。外してください。外してください。って、真っ赤な顔で泣いてて可愛かった…。いやいや、それより、…困った。蒼はストレスが原因でΩ化が芳しくないらしい。玲次は煙草を指で弄びながらポツリと呟いた。
「逃すか。」
「はぁ?それはダメ。」
玲次の言葉を俺は鼻で笑った。そんな事したら、残念ながらまた雲隠れされてしまう。きっとまたすぐに見つけ出せるが、他の奴に手出しされたらムカつく。そもそも、逃げられた感がムカつく。
「監視つけてホテルとかに閉じ込めて、一旦ガス抜きさせろよ。そしてヒート始まったら甘い言葉で騙すなりして、さっさと番契約結んで、また飼えばいいだろ。」
「玲次、割と鬼よな…。鬼塚の名に名前負けしてない…。ひくわー。」
俺の言葉に玲次はキツく睨んでくる。まぁ、玲次も、新薬の効果検証が進まなくて苛ついているんだろう。
蒼とはあまり離れたくはない。蒼を息抜きさせるたって…いつまでとハッキリ分かる話でないだろうし。しかし…このままでは永遠に番契約は出来そうにない。仕方ない…。
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そうやって、やっと番契約を結ぶことができた。
番契約を結んでからは、全てが順調だ。鎖はもう必要ない。蒼は逃げない。不思議とその自信があった。蒼も、俺から逃げるそぶりは見せない。
「蒼ー、コーヒー入れて。」
「はい。」
自宅のスタジオでギターを弾きながら、隣に座る蒼に声をかける。蒼は読んでいた本を置いて、椅子から立ち上がった。コーヒーを入れに行く蒼を、俺は手を止めて見送った。
日差しが暖かい。らしくなく、呑気な事を考えていた。
ガチャンッ
再びギターに視線を落とすと、キッチンから音がする。
蒼?食器でも落としたか…。
俺はギターを置いて、キッチンに向かった。
「蒼?」
「……」
「大丈夫か??…っ、おい、蒼?」
「…あ。」
蒼の足元には割れたカップがあった。どうしたものかと声をかけるが、反応は鈍い。蒼は目つきがおかしかった。瞳に光がない。俺は慌てて蒼に駆け寄った。両肩を掴みゆるす。
「龍介さん……、あ、俺…俺…。ここ、何…?」
「!」
俺は言葉を失った。蒼はどうやら、現実と夢の判断がつかなくなっているようだった。なんで……。
その日から、蒼の奇行は日に日に増え、悪化していった。
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それから、そわそわと落ち着かない。いつか蒼が完全に壊れて、もう何も話さなくなるのではないか。死んでしまわないか。俺のやった事は…、間違っていた?こんな風に迷うなんて、おかしい。いつも自分で、自分の理想通りに事を進めてきたのに。自分でやった事なのに。
「蒼…」
最近では、蒼は全くベッドから起きない。きっと起きても、今の蒼にはこれが夢が現実か区別がつかないんだろう。
俺は寝室で眠る蒼に近寄った。
「……ごめん…」
蒼の頬に触れると、無性に虚しくなった。手に入れる事ばかりに執着して、馬鹿だった…。
「愛してる……」
ごめん。好きなのに、こんなに辛い目にあわせて。
「ごめん…。愛してる……ごめん…ごめん……解放する…。」
無理矢理ねじ伏せてはいけないものがあった。
蒼が蒼でなくなり、壊れていくのが辛い。壊してでも側に置いておきたいと思っていたはずが、実際目の当たりにすると、怖い。
ごめん、蒼。ごめん。
何処かで笑ってて欲しい。例えそこに俺が居なくても。
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