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第8話 幼馴染みに報告

   ぺらり、ぺらりと、少年漫画のページを捲る幼馴染みの隣にイスを持ってきて座る。モトキは一度顔をあげたけど、またすぐに漫画へと視線を落とした。  そんなつれない幼馴染みの態度にもめげず、俺は昨日の報告をする。 「昨日合同実習の顔合わせに行ってきた」 「ほー。で、相手は誰だったんだ?」 「三年のシズク先輩」 「へー」  俺よりも漫画に気を取られているモトキは、気のない返事をしてページを捲ったあと、ピタリと手を止める。  それから顔をこちらに向けると訝しげな表情で口を開いた。 「……。お前今なんて言った?」 「だから。俺の相手シズク先輩だったって」 「はああ!?」  教室中にモトキの突拍子のない声が響いて、一瞬で周りのβの視線が集まるが、声の主を確認するとそれらはぱらぱらと逸れていった。  ちゃんと聞く気になったのかモトキはページを開いたまま漫画を伏せて、体ごとこちらに向きなおる。 「……お前クジ運最っ強だな」 「クジじゃなくて相性診断の結果だけどね」 「どっちでもいいけど、じゃあペア決まらなかったんだ」 「? なんで」  なぜモトキがそう決めつけるのかわからず、眉根をよせる。すると、話の通じないやつだと言わんばかりにモトキも眉間に皺をきざんだ。 「だから、顔合わせの相手シズク先輩だったんだろ」 「そうだけど」 「シズク先輩ってα苦手らしいじゃん。今まで合同実習出たことないらしいぞ。お前もフラれたんじゃないのかよ」  ああそういうことかと納得する。  モトキはシズクがαが苦手だということを知っていたのか。そういうことなら俺がシズクにフラれたと考えても不思議じゃない。  だけど残念ながらその予想ははずれである。 「ペアになった」  声をはずませながら報告する俺に、気の毒そうに幼馴染みが声のトーンを落とす。 「今回はしょうがないな。もっと他にお前にあったΩが現れると思うから、諦めんなよ……」 「ペアに、なったってば」 「……」  ペアになったと言っているのに、フラれたていで話を進める幼馴染みにもう一度伝えると、なんとも言えない表情を返された。 「お前、寝ぼけてんの? シズク先輩がお前のこと相手にする確率がどれだけ低いかその小さい脳みそで理解できてる? ミジンコほどの大きさの希望もないんだぞ?」  どんだけ低いんだよ、とツッコみたくなったが確かに現実的にはそんな確率なのかもしれない。  だがしかし、そんな奇跡のような確率のなか俺はシズクとペアになったのだ。 「信じないならそれでもいいけど、事実だからな。あと俺の脳みそは少なくともお前よりはでかい」 「……まじかよ」  モトキは心底信じられないというように目を細めたが、俺が嘘をついていないと理解したのか最後には納得した。 「あれか、もしかしてお前がβっぽいからシズク先輩も妥協したのかな」  妥協って……俺もシズクもひどい言われようだ。 「お前の群れに入ってくれたわけじゃないんだろ?」  モトキの指摘に、少しだけ苦い気持ちになりながら頷く。 「それは、そうだけど」  確かにシズクとはペアになる約束はしたが、群れのことはいっさい話してない。  誘ったら入ってくれるかもという期待がないわけじゃないけど、モトキのいうとおり、シズクはαに苦手意識があるから授業の一環としてならともかく、プライベートでもとなると難しいかもしれない。  ペアになった相手は群れに入る確率が高いとはいえ、ペアにさえなれば必ず群れに入ってくれるわけではない。  だいたいは合同実習でいかに信頼関係をつくれるかというところが鍵になるんだとか。  だから俺も、シズクと信頼関係が築けるようにがんばろうと思っている。そして合同実習が終わったらダメもとでも、群れに誘うつもりだ。 「まあがんばれ」  あまり期待はしていない様子で俺の肩をポンと叩くと、モトキは手もとの漫画に視線を落とした。  それに励まされた俺は、シズクの話を聞いてもらいたくなってモトキに纏わりつく。 「なあ、モトキはシズク先輩に会ったことある? シズク先輩ってすごく綺麗でかわいくて優しくて良い匂いがするんだけど」 「変態かよお前」 「いや! 本当なんだって。お前も会って話したらわかるから」  正直シズクが相手だったら誰だって変態になりそうだと真剣に思う。それくらいあの人はいろいろとすごい。 「へえへえよかったなあ。お前多分ここで一生分の運使い果たしてるからこのあと覚悟しとけよ」  だいぶ不吉なことを言われたが、まあどうにかなる……と思いたい。  まずは合同実習に向けてちゃんと準備をしようと、心に決めた。  

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