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第15話 ムギの告白

   甘えるような仕草をするムギがかわいくて、心臓が痛い。  俺は、ムギのさらさらと指通りのいい髪をそっと梳いた。癖がなくまっすぐで、艶のある綺麗な髪だ。ずっと触っていたいくらい手触りがよく気持ちがいい。  ムギの要望どおり、頭を撫でながら腰に回したもう片方の手で抱きしめてやる。  そうすると下でふふっと笑う気配がして、ムギがご機嫌な様子で寄りかかってきた。  その幸せそうな、ささやかな笑顔がとんでもなくかわいくてどうにかなりそうになる。というか、どうにかしたい。  ムギが欲しい。俺の群れに入れたい。そう強く思う。  けどムギはαとΩとか、群れとか、そういう関係を面倒に思っているようだから、誘っても興味がないと一蹴されそうだ。  そう、かんたんに予想がつくのにそれでもどうしても諦めきれない。 「ムギ」 「?」  声をかけるとビー玉のような黒い瞳がこちらに向けられる。なんの曇りもなくてまっさらで、吸いこまれそうだ。  そんなムギの目を見つめながら、俺は今の気持ちを伝えることを決めた。  とにかく希望がなくても口説くしかない。ムギも俺もまだ一年だし、今回がダメでもあと二年以上は猶予がある。  今振られたとしても焦る必要はない、そう自分に言い聞かせて気持ちを落ちつけた。 「俺も、ここ数日間ムギと会えなくてすごく苦しかったよ。だから今日会いにきてくれて嬉しい」  ムギの頭に頬を寄せて後ろ髪を撫でる。 「ムギとはこの学園でだけじゃなくて、卒業してからもずっと一緒にいたいと思ってる。だからもしムギも同じ気持ちでいてくれるなら、俺のものになってくれないかな」  緊張から、心拍数があがる。声が少しだけ裏返った。これだけくっついているのだからムギにも心臓の音が聞こえてしまっているかもしれない。  ドキドキしながら返事を待っていると、ムギがぽつりとつぶやいた。 「チアキのものになったら、ずっと一緒にいられるの?」 「うん。そうしたらもっと傍にいる時間もつくれるし、ムギのして欲しいことたくさんしてあげられるよ」 「……」  俺の言葉に、ムギは考えこむように俯く。そのあいだもその手はしっかり俺の服の袖を掴んでいた。  ムギは少し考えたあと「わかった」と頷いた。 「いいよ。チアキのものになる」 「!」 「その代わり約束、ちゃんと守って」  指切り。とムギが小指を目の前に掲げてきたので、俺は自分の小指をそこに絡めた。それから指切りげんまんをして指を離す。 「撫でるのと、ぎゅうしたらいい?」  ムギがなにを望んでいるのかを、先ほど言われたことを思い出しながら確認をとる。するとムギはすぐに口を開く。 「唐揚げも食べたい」 「わかった。唐揚げね」  よほど唐揚げがお気に入りなのだろう。条件のひとつとして挙げてくるムギに微笑ましい気持ちになりながら頷くと、きらきらとした瞳を向けられる。  ムギが喜んでくれるなら唐揚げくらいお安いご用である。  しかしなんというか、ムギのお願いは本当にささやかだ。いやささやかというよりも、ムギを撫でて抱きしめて俺の揚げた唐揚げを美味しそうに食べてくれるって、これ完全に俺へのご褒美じゃないか? いいのか。 「チアキ」 「ん?」 「大好き」 「!?」  いつもの無表情をほんの少し緩めたムギに告げられて、俺は狼狽する。  え。だ、大好きって……。俺のこと?  まさかムギからそんなことを言われるとは思っていなくて感激していたけれど、ふと話の流れを思い出し、もしかしたら俺のことではなく唐揚げのことを言っているのかもしれないと気づく。その方がしっくりくる。 「あ……唐揚げが?」  そういうことかと一瞬でも勘違いした自分を恥ずかしく思っていると、ムギがむっと頬を膨らませた。 「ちがう」 「え」  なにを伝えたいのか飲みこもうとしていると、ムギの手が俺の頬を挟み、顔が近づいてくる。  ふにゅりと唇にあったかくてやわらかい感触がしたかと思うと、すぐにそれは離れていった。 「……」 「……」  呆然とムギを見下ろす俺を、ムギがいじけたような顔をしてまっすぐ見つめてくる。  そろりと口もとに手をやった俺は今しがたおこったことを理解するために脳をフル回転させる。 「ボクが大好きなのは、チアキ」  それを聞いたあと、俺は頭の奥でなにかがぷつりと弾ける音を聞いた。  

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