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第24話 ホムラからの誘い
頭のなかで、たった今言われた言葉を反芻する。
「ホムラ先輩の群れに、俺がですか?」
「ああ」
よもや自分が他人の群れに誘われる日がこようとは。初体験に衝撃を受けながら、どうしたものかと思案する。
ホムラ先輩のことは嫌いではないけど俺はαだし、自分の群れが一番大事だ。だから申し訳ないが彼の群れに入るつもりはない。
引っかかるのは、なぜホムラ先輩はΩでもない俺を群れに入れようなどと考えたのか。
群れとは本来、将来の嫁候補の集まりだ。
だから俺も将来自分の子を生んで欲しいと思う相手や、ずっと傍にいてほしいと思う相手を群れに誘っている。これはどのαもそう変わらないと思うのだけど、ホムラ先輩はちがうのだろうか。
Ω以外を群れに入れることに反対という意味ではない。俺も、隣にいて欲しいと思う相手であればバース性は関係ないと思っている。
ただホムラ先輩が俺を恋愛的な意味で群れに誘っているようには思えなくて、それが疑問なのだ。
彼はもの珍しさや好奇心から俺に興味をもっているだけではないのか。もしくはただ独占できる友人が欲しいだけなのではないか。
そもそもホムラ先輩の好みはシズクのようなΩなのだろう。俺とシズクではタイプがちがいすぎる。
そんなことを考えながらホムラ先輩へと目を向けた。
ホムラ先輩は俺がαだと知ったらどういう反応をするのだろうか。騙されたと怒るだろうか。それとも俺から興味を失くすだろうか。
どうなるかはわからない。だけど今伝えるべきだろう。
「ホムラ先輩」
「あ……、ああ」
名前を呼ぶと、どことなく緊張した様子で見つめ返される。
「返事をする前に、ホムラ先輩に伝えなくちゃいけないことがあるんですけど」
「? なんだ」
伝えるとホムラ先輩は不思議そうに首を傾げた。今から話すことに対してこのひとがなにを返してくるのか不安になって、一瞬躊躇ってから口を開く。
「俺、αなんです」
「……」
「黙っていてすみません」
俺の告白に、ホムラ先輩は軽く目を見開いてこちらを凝視した。しかしすぐに気をとりなおしたように「へえ」と一言つぶやくと、口を閉ざす。
なんでもないことのように流されて、今度はこちらが驚いた。
「それだけ、ですか?」
もっと大げさに驚いたり、怒ったりという反応があることを予想していた俺は、ホムラ先輩のあっさりした態度に拍子抜けする。
「まあ驚いたが、よく考えたらお前みたいなβがいるわけないし」
腕を組み、遠くに視線を投げながら答えたホムラ先輩がちらりとこちらに視線を向ける。
「で、返事は?」
俺の告白は些細なことだとばかり片づけられ、ホムラ先輩への答えを急かされる。そんな態度にやはりこのひとは大物だと思った。
「俺は、ホムラ先輩の群れには入れません」
「……」
「けど友人としてつきあう分にはやぶさかではないので、」
「聴こえない」
「は?」
「イエス以外の言葉は、俺には聴こえない」
「!?」
両手で耳を塞ぎながらそっぽを向くホムラ先輩に絶句する。思わずあんたは小学生かとツッコミそうになった。
「いやいや。そもそも俺はαなのでホムラ先輩の群れに入る意味がわかりません」
「αが他のαの群れに入れないという決まりはないだろ。前例がないわけでもないし、他の群れに入ったからといって自分の群れを解散させないといけないわけでもない」
「そんなにいうならホムラ先輩が俺の群れに入ればいいじゃないですか」
「俺が? 寝ぼけたことをいうな」
「寝ぼけたことをいっているのはそっちでしょうが。だいたい群れに入らなくたって一緒に遊ぶくらいしますよ」
「そうやって都合のいいことを言って、結局連絡しなかったくせに」
「それは……謝ります。けど俺だって自分の群れがあるんですから、そうホムラ先輩にばっかり構っていられません」
「俺よりも自分の群れが大事なのかよ」
口調を強めるホムラ先輩に、自分の群れが大事なのはあたりまえだと思ったが、それを口にすればまたヘソを曲げそうなのでなんとか言葉を飲みこむ。
しかしホムラ先輩はこの無言を肯定だと理解したらしい。眉間に深い皺を刻むと、無言でこちらを睨みつけてくる。
もー……俺より二個も年上なのに、手のかかるひとだな。
「この話はもういいでしょ。学校が終わったら気が済むまでつきあいますから、もう機嫌直してください」
ホムラ先輩の頬に両手を伸ばすと、むにゅと両側から挟んだ。圧迫したり力を抜いたりを繰り返していると、ホムラ先輩は頬を赤らめ口をへの字にして目を逸らす。
しゅっとしていてあまり肉がついてなさそうなのに、ホムラ先輩の頬は触り心地がいい。引っぱったら餅みたいに伸びそうなくらいやわらかい。
どれくらい伸びるのかと実行しかけたら、あえなくそれを察知したホムラ先輩に止められてしまった。
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