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第32話 ホムラと返事2*

   ホムラの両手に指を絡め、フェンスに押しつける。  αである彼は男らしく筋ばった大きな手のひらをしている。か弱く儚げなΩとは真逆の位置に立つ、逞しく強い、庇護する側の人間だ。  本来なら可愛いなんて言葉とは縁遠いはずなのに、今の俺にはホムラがとても可愛く思えた。  笑みを浮かべてその薄い唇と口内を堪能する。ホムラの口の中は熱くて、舌を絡めるとどこか甘く感じた。 「……っ、……」  最近群れを作ることができた俺と、学園内一の規模の群れを持っていたホムラ。俺たちの経験値には恐らく天と地ほどの差があって、もちろんホムラはキス程度のことには慣れているだろう。  なのに。  じんわりと頬を染めて、眉間に皺を寄せながら鼻を鳴らすホムラ先輩の姿はとても初々しい。  主導権を握ることには慣れていても、取られることには慣れていないのだろうか?  彼のはじめての体験の相手が自分なのかもしれないと思うと不思議な感覚がして、気持ちが高揚する。  触れあった舌の表面からぞわぞわとした落ち着かない感覚が広がり、気持ちよさに喉を鳴らした。  そっと瞼を持ちあげると、目の前には俺の口づけを余裕のない様子で受けとめるホムラの顔。  唇を離しながら熱に蕩けたホムラの表情をじっと見つめる。それから絡みつけた指にキュッと力をこめた。 「ホムラ、舌ちょうだい……」  可愛いなあと思いながら促すと、薄く開いた口のあいだから遠慮がちに舌が伸ばされる。それにちゅっと吸いついく。  片方の手をそっと解いて服の上から脇腹を撫でた。  ホムラの身体は鍛えられているのか筋肉がついて引き締まっている。けれどだからといってガチガチに硬いのかと言われるとそうではなくて、触ると案外気持ちがいい。  這わせていた手を一旦離し、スラックスに収まっていたホムラのシャツを引っぱりだす。それからシャツの中へ手を滑りこませて直接肌に触れた。 「っ」  滑らかでほんのり温かな肌の感触を手のひらに感じたのとほぼ同時に、ホムラの身体が揺れる。  それに頬を緩めると、手のひらをゆっくり上下させた。  手の動きは止めないまま、何度となくホムラの舌に舌を絡める。  その先端を吸っていると、ホムラからも同様に返された。少しだけ荒っぽいその仕草をなんだか新鮮に感じる。  男らしい身体のラインを撫でながら徐々に手を上へと滑らせると、指先が小さな尖りに触れた。俺はその周囲をくるりとなぞるとささやかに主張しているそこを軽く爪の先で引っかく。 「っチアキ」  唇を離して目を合わせると、ホムラが瞼を伏せて唇を噛んだ。 「……ホムラにもっと触りたい」  耳元に唇を寄せて囁きながらゆったりと人差し指でそこを弄る。  すぐ近くではっと息を飲む気配がして、ホムラの手が俺の腕に触れた。  落とされていた視線が俺のものと絡み合う。らしくなく不安を滲ませた瞳。その不安を取り除くためにやわらかく微笑むと、絡めあった手をにぎにぎする。 「部屋に、こない?」  首を傾げながら尋ねると、少しの間を空けてホムラの頭が僅かに上下した気がした。 ◇◇◇◇  αの男性はΩとはちがい、他者を受け入れる身体のつくりではない。その分デリケートだし慎重にならなければならないと思う。  早くホムラの全部を自分のものにしてしまいたくて逸る気持ちを宥めながら、仰向けの体勢でこちらを見上げてくるホムラに覆い被さる。 「おいチアキ」 「ん?」 「その、やっぱりお前が上――なんだよな」 「そのつもりだけど。怖い?」  戸惑いを滲ませながら真面目な顔で尋ねられて、俺はそれに頷くことで肯定を示した。  そわそわと落ち着かない様子のホムラが可愛くて口元が緩みそうになるけど、今笑ったらちがう意味に捉えられて怒られそうなので、頬の筋肉に力をこめて堪える。 「こっ……怖いわけがあるか」 「そう?」 「当然だろう」 「そっか。そうだよな。今から未知の体験をするんだから怖くて当たり前だ。ごめん、変なこと聞いた」 「……っ……」  ぐっと言葉を詰まらせるホムラなの頬をひと撫でして、唇に親指を滑らせる。そのまま唇を寄せて軽く啄み、何度か口づけを落とすと顔を離してまた頬を撫でた。  緊張しているのかゴクリと唾を飲みこみ上下する喉仏に目をとめる。 「もし無理なようなら、別に今日じゃなくてもいい。そりゃあホムラの全部を俺のものにしたいのも本音だけど、一番大事なのはそこじゃないから」  だから辛かったら我慢しないで言ってほしい、と目を見つめながら伝える。  ホムラはなにかあっても強がって口にしなさそうだから、はじめに念を押した。 「わ……かった」  ぎこちなく頷くホムラにほっとして口もとを緩めると、突いていた手のひらに力をこめて上体を起こし、着ているシャツのボタンに手をかける。ボタンを外し終えるとシャツを腕から抜いてベッドの下に放る。  上半身を裸になると再度ホムラの顔の横に手を突き、身を屈めた。  視線を合わせると唇に触れるだけのキスをする。  それからホムラのシャツに手をかけて前をはだけさせた。現れたのは綺麗に引き締まった男らしい身体で、思わず息を飲んだ。 「なんだよ」  程よく筋肉のついた胸板や腹をまじまじと見ていると、訝しげな視線を投げられる。 「いや。きれいだなと思って」 「っな」  思ったままを口にすると、今度は信じられないものを見るような目を向けられた。  驚いた表情で絶句しているホムラを可愛いなと思いながら、肌に手を這わせ輪郭を確かめるようになぞっていく。軽く撫でるように手を滑らせていると、ホムラの身体が小さく震えた。 「……ッ」  その反応に口の端をやんわりと持ち上げると、彼の肌にそっと唇を押しあてる。  

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